自動車業界特化型税理士 酒井将人
『第19話:家族に給与を払おう!【後編:法人の場合】』
個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。
【今回のテーマ】
「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、順調に事業を進めており、自分一人では業務の方が手一杯になってきたので、家族に事務仕事を手伝ってもらうことにしました。そこで今回は、前回の『第18話:家族に給与を払おう!【前編:個人事業主の場合】』に次いで、法人が家族に給与を支払う際のポイントについてご紹介します。
【2つの支給方法】
法人が、代表者の家族に対して給与を支払う方法は2パターン存在します。一つは、家族をその法人の役員(取締役)に就任させることにより「役員報酬」として給与を支払う方法です。配偶者に給与を支払うケースでは、こちらが一般的な支払方法と言えるでしょう。もう一つは、一般の従業員と同じように雇用による労働の対価として「従業員給与」を払う方法です。両親や大学生の子供に手伝ってもらうケースなどに採用することが多い方法です。両者は「家族に対して給与を支払う」という意味では同じですが、法律上の解釈や税務上の取り扱いが異なってきますので、後述するそれぞれの方法について確認し、どちらの方法を採用するかを慎重に検討するようにしましょう。
【家族の役員就任と役員報酬】
法人がその役員に支給する給与については、『第17話:自分に給与を払おう!』でご紹介したとおり、不当な利益調整の防止などの観点から、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」3種類に限り損金算入が認められています。この点は、経営者が自分自身に給与を支払う場合と同様に注意が必要ですが、家族に給与を支払う場合には、支給額についても注意が必要となります。法人が役員に対して支払う役員報酬は、「株主が会社経営を委任したことに対する対価」であり、従業員に対して支払う給与のように「雇用契約に基づく労働の対価」とは異なるため、本来は勤務体系や仕事内容に応じて決定する必要はないものですが、不相当に高額な部分の金額については費用として認められませ。そして、家族に役員報酬を支払う場合には、金額を恣意的に設定することができるため、税務署はこの「不相当に高額な部分の金額」について厳しい目で見ているのです。
【家族の社員雇用と従業員給与】
法人が家族を役員としてではなく従業員として雇った場合には、『第18話:家族に給与を払おう!【前編:個人事業主の場合】』でご紹介した「青色事業専従者給与」と同様に労務の対価として相当である(不相当に高額でない)金額設定が重要となり、実際の業務内容と照らし、家族以外の従業員を雇った場合の給与と比べて明らかに高額であれば、税務調査で否認されることになります。
また、家族経営である同族会社における経営者の家族は、役員として法務局に登記をしない場合であっても一定の株式を保有して経営に従事している等のケースでは「みなし役員」と認定されることがあり、その場合は賞与が損金として認められないなど役員と同様の取り扱いを受けることとなります。
【今回のまとめ】
今回は、前後編に分けて個人事業主と法人が家族に給与を支払った場合の取り扱いについてご紹介しましたが、浅慮な考えで家族に給与を支払ってしまうと思わぬ追徴課税を受ける恐れがあります。これは「家族だから特別扱いをすることができる」という税務署側の考え方によるものではありますが、特に金額設定の部分では、将来的に家族以外の従業員を雇用した場合にも、一般従業員としても不公平に感じて労働意欲の低下につながってしまうため、経営者としては細心の注意を払いたいポイントと言えます。法人が経営者の家族に給与を支給する場合、役員とすべきか、従業員とすべきか、その法人の状況と家族の状況を総合的に勘案して選択する必要がありますので、経営者の判断だけで決定せず、顧問税理士に相談したうえで最善の選択をして頂ければと思います。
【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。
【今回のテーマ】
「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、順調に事業を進めており、自分一人では業務の方が手一杯になってきたので、家族に事務仕事を手伝ってもらうことにしました。そこで今回は、前回の『第18話:家族に給与を払おう!【前編:個人事業主の場合】』に次いで、法人が家族に給与を支払う際のポイントについてご紹介します。
【2つの支給方法】
法人が、代表者の家族に対して給与を支払う方法は2パターン存在します。一つは、家族をその法人の役員(取締役)に就任させることにより「役員報酬」として給与を支払う方法です。配偶者に給与を支払うケースでは、こちらが一般的な支払方法と言えるでしょう。もう一つは、一般の従業員と同じように雇用による労働の対価として「従業員給与」を払う方法です。両親や大学生の子供に手伝ってもらうケースなどに採用することが多い方法です。両者は「家族に対して給与を支払う」という意味では同じですが、法律上の解釈や税務上の取り扱いが異なってきますので、後述するそれぞれの方法について確認し、どちらの方法を採用するかを慎重に検討するようにしましょう。
【家族の役員就任と役員報酬】
法人がその役員に支給する給与については、『第17話:自分に給与を払おう!』でご紹介したとおり、不当な利益調整の防止などの観点から、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」3種類に限り損金算入が認められています。この点は、経営者が自分自身に給与を支払う場合と同様に注意が必要ですが、家族に給与を支払う場合には、支給額についても注意が必要となります。法人が役員に対して支払う役員報酬は、「株主が会社経営を委任したことに対する対価」であり、従業員に対して支払う給与のように「雇用契約に基づく労働の対価」とは異なるため、本来は勤務体系や仕事内容に応じて決定する必要はないものですが、不相当に高額な部分の金額については費用として認められませ。そして、家族に役員報酬を支払う場合には、金額を恣意的に設定することができるため、税務署はこの「不相当に高額な部分の金額」について厳しい目で見ているのです。
【家族の社員雇用と従業員給与】
法人が家族を役員としてではなく従業員として雇った場合には、『第18話:家族に給与を払おう!【前編:個人事業主の場合】』でご紹介した「青色事業専従者給与」と同様に労務の対価として相当である(不相当に高額でない)金額設定が重要となり、実際の業務内容と照らし、家族以外の従業員を雇った場合の給与と比べて明らかに高額であれば、税務調査で否認されることになります。
また、家族経営である同族会社における経営者の家族は、役員として法務局に登記をしない場合であっても一定の株式を保有して経営に従事している等のケースでは「みなし役員」と認定されることがあり、その場合は賞与が損金として認められないなど役員と同様の取り扱いを受けることとなります。
【今回のまとめ】
今回は、前後編に分けて個人事業主と法人が家族に給与を支払った場合の取り扱いについてご紹介しましたが、浅慮な考えで家族に給与を支払ってしまうと思わぬ追徴課税を受ける恐れがあります。これは「家族だから特別扱いをすることができる」という税務署側の考え方によるものではありますが、特に金額設定の部分では、将来的に家族以外の従業員を雇用した場合にも、一般従業員としても不公平に感じて労働意欲の低下につながってしまうため、経営者としては細心の注意を払いたいポイントと言えます。法人が経営者の家族に給与を支給する場合、役員とすべきか、従業員とすべきか、その法人の状況と家族の状況を総合的に勘案して選択する必要がありますので、経営者の判断だけで決定せず、顧問税理士に相談したうえで最善の選択をして頂ければと思います。
【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。