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Web限定【自動車業界特化型税理士新連載企画】「個人事業」で車屋を始めた酒井くんと、「法人」を設立した相川さん

『第15話:自己資金を投入しよう!!』

 個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。

【今回のテーマ】
 「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、本格的に事業をスタートさせましたが、車両在庫をより充実させるべく、車両仕入のために創業融資で借り入れをした資金に加えて自己資金を投入することにしました。個人口座から事業用口座(法人口座)に自己資金を振り込んだ両者ですが、会計上はどのように処理すべきでしょうか?また、税務上の問題などは生じないのでしょうか?今回は、自己資金の投入に関する会計処理と税務上の取り扱いなどについて整理したいと思います。

【自己資金とは】
 自己資金とは、その名の通り自己が所有している手持ちの資金のことをいいます。『第8話:創業融資を受けよう!』の中でもご紹介したように、創業融資を申し込む際に論点になることが多いこの自己資金ですが、事業者は、創業時に限らず手持ちの資金を事業用資金として投入することができ、また、いつでも任意のタイミングで投入した自己資金を回収することができます。商品単価が大きい車屋の場合、急な仕入で事業用資金が足りなくなった場合などには、自己資金を上手く織り交ぜながら運転資金を回していくことが重要となります。

【自己資金に係る会計処理】
 自己資金の投入に係る会計処理は、個人事業主の場合と法人の場合では大きく異なるため、投入時と回収時それぞれの会計処理について確認していきます。

(1)個人事業主の場合の会計処理
 個人事業主は、1人の人間でありながら「事業主である自分」と「プライベートの自分」が常に同居している状況にあります。そして、会計処理を行ううえでは、この事業主とプライベートを明確に分ける必要があり、そのために「事業主勘定」というものを使って処理を行います。この事業主勘定は、事業に関する会計処理を行う中でプライベート(事業以外)の取引が生じた場合に使用する勘定科目で、「事業主貸(借方・資産)」と「事業主借(貸方・負債)」という2つの科目を使い分けます。
 前置きが長くなってしまいましたが、自己資金の投入というのは、「事業主である自分」が「プライベートの自分」からお金を借りる行為であると言えますので、次のように会計処理を行います。

<自己資金投入時>
 [借方]普通預金 ●●円 / [貸方]事業主借 ●●円

<自己資金回収時>
 [借方]事業主貸 ●●円 / [貸方]普通預金 ●●円

 自己資金回収時の処理については、「事業主である自分」からすると借りたお金を返した訳ですから「事業主貸」で処理するのことに違和感があるかもしれませんが、個人事業主の場合には事業用口座に入金した場合の相手科目は「事業主借」、事業用口座から出金した場合の相手科目は「事業主貸」とシンプルに使い分けると良いでしょう。なお、この事業主勘定は年度ごとに精算される仕組みになっていて、その年度の貸借対照表の年末残高は翌年度の元入金(※)に組み込まれる形になります。

(※)元入金とは、個人事業主の貸借対照表で使われる純資産の勘定科目です。元入金は、個人事業主の出資(事業主とプライベートの資金のやりとり)の金額と事業で得た利益の合計額となるため、毎年金額が変わります。

<翌年度の元入金の金額>
元入金の年末残高 + 青色申告特別控除前の所得金額 + 事業主借の年末残高 - 事業主貸の年末残高 = 翌年度の元入金の年初残高

(2)法人の場合の会計処理
 法人の場合は個人事業主とは違い「事業を行う法人」と「役員としての自分」が全くの別人格として存在している状況にあります。つまり、自己資金の投入というのは、ただ単に「事業を行う法人」が「役員としての自分」からお金を借りるだけなので、次のように会計処理を行います。

<自己資金投入時>
 [借方]普通預金 ●●円 / [貸方]短期借入金 ●●円

<自己資金回収時>
 [借方]短期借入金 ●●円 / [貸方]普通預金 ●●円

 ここでは短期的な自己資金の投入を前提として「短期借入金(流動負債)」の科目を例示しましたが、長期的な投入の場合には「長期借入金(固定負債)」の科目で処理することもあります。また、金融機関からの借入金と区別するために「役員借入金」という科目を用いるのも良いでしょう。
 なお、ここで注意して頂きたいのが自己資金回収時の処理です。個人事業主の場合は、事業用口座への入出金に応じて「事業主借」と「事業主貸」をシンプルに使い分けるだけで翌年度の元入金に自動的に組み込まれる仕組みになっていましたが、法人の場合は自己資金の投入額(役員からの借入金額)の残高を帳簿上で把握しておく必要があるため、回収時の勘定科目も「短期借入金」となっています。

【自己資金の税務上の取り扱い】
 あまり多く自己資金を投入すると税務署から指摘を受けるのではないかと不安に思われている方もいらっしゃると思いますが、個人事業主と法人のいずれにおいても、自己資金の投入や回収は損益には影響しないため、税金が多くなったり少なくなったりすることもなく、原則として税務上の問題は発生しません。
 また、法人の場合には別人格である「法人」と「役員」の間でお金の貸し借りが行われる形となるので、利息の計上について悩むケースもございますが、無利息であっても税務上は問題ないため、特殊な事情が無い限りは、利息の設定も必要ありません。
(注)役員から法人への自己資金の投入ではなく、法人から役員に資金を貸し付けた場合には、税務が定める所定の利率で利息を設定する必要があります。

【今回のまとめ】
 今回は自己資金の取り扱いについて個人事業主と法人の違いなどについてご紹介しました。1台あたりの商品単価が大きい車屋の経営においては、金融機関からの借入だけで資金を回すことは難しく、仕入好機などには自己資金を積極的に活用していく必要があります。あまり自己資金の投入額が大きくなりすぎる場合には、増資や金融機関からの追加融資も検討すべきですが、今回ご紹介したように自己資金の投入については会計処理のハードルは低く、税務上の問題も原則として生じません。ぜひ、資金の運用効率と在庫車の回転率を高める手段として自己資金の活用を検討してみて下さい。


【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。

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