ソウイング
~再び翳りが見え始めた ロシアへの中古車輸出に復活は期待できるか~ ソウイング 代表取締役社長 中尾聡氏 寄稿
(3)ロシア中古車流通ルートの変化と現状(写真❾写真❿)
ここで改めて、日本から輸入された中古車の主な流通ルートを紹介してみる。大きく2つのかたちが存在する。一つは中古車バザール(市場)グリーンコーナーでの展示販売。そしてもうひとつが、中古車取引のポータルサイトである。
中古車バザール(市場)グリーンコーナーでの展示販売については、既に多くのマスコミで取り上げられていると思うが、1993年に開設され、敷地面積は7万~8万坪(正確に把握されていない)を擁し、展示台数は1万台以上を誇る世界最大規模の市場を器としている。日本から輸入された中古車はここに展示され販売されていくと言った仕組みだ。地元ウラジオストックを中心に沿海地方やハバロフスクなど極東地域全般、また遠くはモスクワやサンクトペテルブルクからもユーザーが来場。展示車両は乗用車が中心であるが、商業車や重機、建機さらにはバイクや農機具なども台数こそ多くはないが展示されており、ボリュームとバリエーションが最大のウリである。また9割以上は日本のブランド。日本車人気の高さが伺える。
ちなみに、ここに展示する場合、車格にもよるが、1台1ケ月の展示料(家賃)が4000~6000ルーブル程度必要で、さらに販売を代行してもらうブローカーにも同等程度の手数料を支払わなければならいと言ったルールがある。(グリーンコーナーで販売する場合、基本的に自分で販売するのではなくブローカーに委託するケースが多い)
そして、もう一つの流通ルートが最近台頭し、グリーンコーナーの存在を脅かしいているのが、中古車取引のポータルサイト「Dorm.ru」と「Japancar.ru」の存在だ。特に「Dorm.ru」では、毎日約5000台の売買が成立しているという。(9月時点 ロシア全域が対象、一部新車もある)先述のフィリップ社長が前回の取材時に話していたが『従来のようにグリーンコーナーで展示販売する車両も日本のAAで落札した段階で、これらのサイトに在庫としてアップし、ウラジオストック港に着いた段階ですでにユーザーが決まっているケースが多くなっている。』という。そういう車両はわざわざグリーンコーナーに展示する必要がなくなっている。またコスト的にも、グリーンコーナーに展示する場合それに対して、サイトにアップし成約した場合、コストは20分の一以下でキャッシュフローも早いため、グリーンコーナーが敬遠されているとのことだった。ただ現状はどうなっているのかフィリップ社長に聞いてみたところ「グリーンコーナーのあるウラジオストックの冬は寒さが厳しく(-30℃になることもある)、例年でも来場者は一気に減少するが、今年はさらに輪をかけた状態でゴーストタウン化している。また「Dorm.ru」と「Japancar.ru」の各サイトも現在は掲載件数が一気に減少している」と予想通りの回答を寄せてくれた。
(4)中古車事業者を襲う三重苦 スクラップインセンティブ制度が今年も継続
日本から中古車を輸入し販売している事業者にとって、これまでに紹介した通り、ウクライナ問題に起因した極度なインフレによる消費低迷、ルーブル安による為替リスクの直撃といった暴風雨に見舞われているが、さらに追い打ちを掛けているのが、ロシア政府が昨年9月1日から実施しているスクラップインセンティブ制度だ。経年車を解体し、新車を購入する場合、乗用車で4万ルーブル以上、商用車で35万ルーブル以上の助成金を支払うというもの。当初、実施期間は昨年いっぱいで、予算は10億ルーブルを計上していたが、経済全体が低迷しており、いくらこの制度があっても新車は売れず、結果的に予算が消化しきれずに、今年も継続されている。中古車事業者にとっては、まさに三重苦に見舞われている。
(5)ショッキングな見出『どうかハラキリだけはしないでください』(写真⓫掲載)
これは昨年9月9日付けの地元経済紙の一面を飾った何とも物騒な見出しだが、記事の内容は9月4日にグリーンコーナーを自民党参議院議員の佐藤ゆかり氏(現在は衆議院議員)が業界関係者を引き連れ視察を行ったというものだ。(写真参照)恐らく、『厳しい市場環境下でも頑張ってください』といったような発言を、このような表現をしたと思われるが、当時の市場環境を明確に物語っている。ただ、これを掲載した記者も、ここまで酷くなるとは想像していなかったのではないだろうか。
(6)今後の見通し(写真⓬⓭掲載)
原油価格がこのまま暴落し、ルーブル安に歯止めが掛からなければ、2015年のロシアへの中古車輸出台数はほぼ確実に、5万台ベースにまで下降するものと予想される。エネルギー専門家の中には、一時的に1バレル=30ドルを切る水準まで下がるとの見方もあるが、これまでの歴史や資源の重要性を鑑みれば、この流れが継続することはないと期待したい。いずれにせよ、この問題が早急に解決されなければ、中古車輸出の回復はないだろう。
そして、10年以降、回復を遂げた要因に、12年APECのウラジオストック開催を機に、公共事業や民間からの投資をあわせて6793億ルーブル、日本円にすると、じつに1兆8000億円のあまりの巨額の資金が投下され、極東のインフラを一挙に整備することを目的としたプロジェクト「2013年までの極東・ザバイカル(バイカル湖より東の地域を指す)経済社会発展プログラム」の存在があった。このプロジェクトでは日本から輸入された中古の商業車、重機、建機が大いに活躍したが、このようなカンフル剤的なプロジェクトの実施がないと根本的な解決は見出せないのが現状と言える
ここで改めて、日本から輸入された中古車の主な流通ルートを紹介してみる。大きく2つのかたちが存在する。一つは中古車バザール(市場)グリーンコーナーでの展示販売。そしてもうひとつが、中古車取引のポータルサイトである。
中古車バザール(市場)グリーンコーナーでの展示販売については、既に多くのマスコミで取り上げられていると思うが、1993年に開設され、敷地面積は7万~8万坪(正確に把握されていない)を擁し、展示台数は1万台以上を誇る世界最大規模の市場を器としている。日本から輸入された中古車はここに展示され販売されていくと言った仕組みだ。地元ウラジオストックを中心に沿海地方やハバロフスクなど極東地域全般、また遠くはモスクワやサンクトペテルブルクからもユーザーが来場。展示車両は乗用車が中心であるが、商業車や重機、建機さらにはバイクや農機具なども台数こそ多くはないが展示されており、ボリュームとバリエーションが最大のウリである。また9割以上は日本のブランド。日本車人気の高さが伺える。
ちなみに、ここに展示する場合、車格にもよるが、1台1ケ月の展示料(家賃)が4000~6000ルーブル程度必要で、さらに販売を代行してもらうブローカーにも同等程度の手数料を支払わなければならいと言ったルールがある。(グリーンコーナーで販売する場合、基本的に自分で販売するのではなくブローカーに委託するケースが多い)
そして、もう一つの流通ルートが最近台頭し、グリーンコーナーの存在を脅かしいているのが、中古車取引のポータルサイト「Dorm.ru」と「Japancar.ru」の存在だ。特に「Dorm.ru」では、毎日約5000台の売買が成立しているという。(9月時点 ロシア全域が対象、一部新車もある)先述のフィリップ社長が前回の取材時に話していたが『従来のようにグリーンコーナーで展示販売する車両も日本のAAで落札した段階で、これらのサイトに在庫としてアップし、ウラジオストック港に着いた段階ですでにユーザーが決まっているケースが多くなっている。』という。そういう車両はわざわざグリーンコーナーに展示する必要がなくなっている。またコスト的にも、グリーンコーナーに展示する場合それに対して、サイトにアップし成約した場合、コストは20分の一以下でキャッシュフローも早いため、グリーンコーナーが敬遠されているとのことだった。ただ現状はどうなっているのかフィリップ社長に聞いてみたところ「グリーンコーナーのあるウラジオストックの冬は寒さが厳しく(-30℃になることもある)、例年でも来場者は一気に減少するが、今年はさらに輪をかけた状態でゴーストタウン化している。また「Dorm.ru」と「Japancar.ru」の各サイトも現在は掲載件数が一気に減少している」と予想通りの回答を寄せてくれた。
(4)中古車事業者を襲う三重苦 スクラップインセンティブ制度が今年も継続
日本から中古車を輸入し販売している事業者にとって、これまでに紹介した通り、ウクライナ問題に起因した極度なインフレによる消費低迷、ルーブル安による為替リスクの直撃といった暴風雨に見舞われているが、さらに追い打ちを掛けているのが、ロシア政府が昨年9月1日から実施しているスクラップインセンティブ制度だ。経年車を解体し、新車を購入する場合、乗用車で4万ルーブル以上、商用車で35万ルーブル以上の助成金を支払うというもの。当初、実施期間は昨年いっぱいで、予算は10億ルーブルを計上していたが、経済全体が低迷しており、いくらこの制度があっても新車は売れず、結果的に予算が消化しきれずに、今年も継続されている。中古車事業者にとっては、まさに三重苦に見舞われている。
(5)ショッキングな見出『どうかハラキリだけはしないでください』(写真⓫掲載)
これは昨年9月9日付けの地元経済紙の一面を飾った何とも物騒な見出しだが、記事の内容は9月4日にグリーンコーナーを自民党参議院議員の佐藤ゆかり氏(現在は衆議院議員)が業界関係者を引き連れ視察を行ったというものだ。(写真参照)恐らく、『厳しい市場環境下でも頑張ってください』といったような発言を、このような表現をしたと思われるが、当時の市場環境を明確に物語っている。ただ、これを掲載した記者も、ここまで酷くなるとは想像していなかったのではないだろうか。
(6)今後の見通し(写真⓬⓭掲載)
原油価格がこのまま暴落し、ルーブル安に歯止めが掛からなければ、2015年のロシアへの中古車輸出台数はほぼ確実に、5万台ベースにまで下降するものと予想される。エネルギー専門家の中には、一時的に1バレル=30ドルを切る水準まで下がるとの見方もあるが、これまでの歴史や資源の重要性を鑑みれば、この流れが継続することはないと期待したい。いずれにせよ、この問題が早急に解決されなければ、中古車輸出の回復はないだろう。
そして、10年以降、回復を遂げた要因に、12年APECのウラジオストック開催を機に、公共事業や民間からの投資をあわせて6793億ルーブル、日本円にすると、じつに1兆8000億円のあまりの巨額の資金が投下され、極東のインフラを一挙に整備することを目的としたプロジェクト「2013年までの極東・ザバイカル(バイカル湖より東の地域を指す)経済社会発展プログラム」の存在があった。このプロジェクトでは日本から輸入された中古の商業車、重機、建機が大いに活躍したが、このようなカンフル剤的なプロジェクトの実施がないと根本的な解決は見出せないのが現状と言える