グーネット自動車流通

メニュー

バディカ書籍案内

モータリゼーション期突入、フィリピン自動車市場

  • トヨタサンタローサ トヨタサンタローサ
  • 新車展示 新車展示
  • 整備工場 整備工場
  • 中古車ビジネス(トヨタSURE) 中古車ビジネス(トヨタSURE)
  • 店舗フロント 店舗フロント
 フィリピンのマニアでトヨタディーラーを展開しているTOYOTA SANTAROSA,LAGUNA,INC(トヨタサンタローサ)は、日系企業が新車ディーラーの経営を行っている。トヨタサンタローサの現地社長、桑原望様にフィリピンにおける自動車市場の現状と今後の展望について話を聞いた。(川崎大輔)

◆コロナ禍前の水準を完全に超えた、フィリピン自動車市場

 トヨタサンタローサは、アンビシャスグループ北海道株式会社(池田社長、札幌市)が株式40%を保持し、株式の60%を取得しているフィリピン大手財閥GTキャピタルの子会社と連携してディーラー経営を行っている。トヨタサンタローサの桑原社長は「この場所を選んだのは、ディーラー店舗が新しかったこと、また、高速道路やトヨタ工場にも近いこの場所にポテンシャルを感じたため」と語る。トヨタディーラーはルソン島だけで45ディーラー存在する。その中で、3つのディーラーカテゴリーが存在する。月300台以上の販売ディーラーは、ラージディーラーと呼ばれ、トヨタサンタローサはそこに属する。そのほかミドル、スモールディーラーが存在する。

 フィリピンの自動車市場の状況は、2022年新車販売台数は対前年2桁以上の増加となりコロナ禍前の水準をほぼ回復した。フィリピン自動工業会(CAMPI)のデータによれば、2022年の新車販売台数は35万2,596台だ。

 CAMPIに加盟していないメーカーの公式な販売台数統計がなく正確な総販売台数の把握は難しいが、フィリピン自動車販売企業協会(PADA)と独立系ディーラー販売分を加え重複分を調整した2022年のフィリピンの新車総販売台数は26.6%増の37万2,083台とも発表されている。

 更にトヨタモーターフィリピン(TMP)の発表によれば、2022年の新車販売台数は 17万4,016台であり、新車総販売台数に占めるトヨタブランドシェアは46.6%と断トツのトップとなっている。TMPによれば2023年のフィリピン全体の新車販売予測は41万台で、トヨタはシェア49%を目指している。これを獲得できるとすれば、2023年のトヨタの販売目標台数は20万1000台となる。2023年9月時点でフィリピンの新車マーケットは順調に推移しており、目標を数千台越えるという見方もある。

◆プレモータリゼーションからモータリゼーションへ

 「フィリピンでも車を購入できる人が大分増えてきました。うちのディーラーにおいては、車を初めて購入する新規購入者の割合は7割、2台目以降の車を追加で購入する増車が2割、車を買い替える代替が1割くらいです」(桑原社長)。しかし「増車と代替えがぼやけていてはっきりわかりません。下取りは1%くらいしかできていないためきちんと把握ができていません。下取り率が低いのは、自分の車を購入する前に、先に自分の車を個人売買など別な場所で売却してしまい、そのお金を持って新車を購入しにくるためだと思われます」と語る。

 フィリピンの購入形態は、新規+増車で8割強、代替1割弱ほどと推計される。すでに市場が飽和している日本では、新規+増車が2割弱、代替が8割強となっている。日本とは全く逆の購入形態となっていることがわかるだろう。

 一般的にその国の1人当たりGDPが3000ドルを越えると、徐々にモータリゼーションが始まると言われている。フィリピンにおける1人当たりGDPは3623ドル(2023)で、3000ドルを超えたのは2016年あたりからとなっている。プレモータリゼーションを通り越し、モータリゼーションの兆しが見えてきたと言えるタイミングだ。

このような変化のタイミングに注目すべき比率は新規比率だ。フィリピンではちょうど高所得層による需要から 新中間層による需要へと変化している。経済成長の結果は、まず高所得層の所得増加から始まる。経済成長が一定の水準を越えると急速に中間層に所得分配がなされる。そうすると新規需要が拡大をしてくる。同時にその頃重要となるのはアフターマーケットで、特に自動車ローンと中古車流通。これらのマーケットもモータリゼーション期に大きくなる。いや、むしろ自動車市場を大きくするために強化しなければ、新規需要が育っていかない。

 他にも高所得者層より収入が低い新中間層が購入を増やしたという変化の兆しを見ることができる。フィリピンで最も販売されている車種は、5年連続でサブコンパクトセダンのトヨタヴィオスだ。「トヨタサンタローサでは50%くらいが110万ペソほど以下の安めの車を購入していきます。それらが主流となっていて、VIOS/WIGO/RAIZEなどがメインの販売車です。今後もこの傾向が続くのではないでしょうか」と語る。つまり、VIOSが欲しいというより車が欲しいという傾向が強い。また、VIOSはファイナンスのDP(頭金)のプロモーションが一番多い。例えば頭金を20%から10%に減らすキャンペーンをしたりするので新中間層であっても購入しやすい。

 これからのフィリピン自動車ビジネスは、高所得者による代替需要・増車需要だけでなく、新規需要対策で中間層を取り込んでいく必要がある。自動車を保有していなかった層による新規需要が急速に拡大する。そのためにも低価格で手頃な新車販売のさらなる強化施策が重要となろう。

◆新車ディーラーによる中古車ビジネスの必要性

 2023年も新車市場が拡大している要因として、1つにコロナ後の市場が回復したこと、2つめはローン審査が通りやすくなったこと、またインフレに伴って消費が上がってきている(7%インフレ)という要因などがあげられる。一方で、新車ディーラーが経営体として強くなり継続的に収益を上げていくためには、新車販売だけでなく、中古車ビジネスを今から強化していく必要があるだろう。

 「中古事業としては、新車を販売して、トレードイン(下取、買取)で在庫調達が王道となりますが、なかなかできていません。フィリピンのトヨタメーカーも中古車ビジネスを積極的におこなうよう推奨をしていますが、それの方法として、ファイナンス会社のレポジェスト車(引上げ車)入札会への誘導となっているのが現状です」(桑原社長)。更に「トヨタ全体で下取りターゲットは5%ほどで日本に比べてまだまだ低いです」と言う。

 特にアセアン諸国における新車ディーラーでは、中古車ビジネスが育っていない。新車を並べていれば、勝手に販売されていくという状況の中では、なかなか自動車メーカーも新車ディーラーも中古車販売に力が入らないのであろう。日本でも1970年代は同じで中古車ビジネス、修理・整備などのアフタービジネスに関心がない時代があった。新車ディーラーの収益安定、発展にとって、新車販売だけではなく中古車を下取り、それらを小売りできる体制を構築することが重要だ。それが、他の自動車メーカー、そして他の新車ディーラーとの差別化を作り出すことにもなろう。長期的にみれば自動車メーカーにとっても、新車ディーラーが経営体として強くなることで新車販売が拡大する。つまり中古車ビジネスを作り出し流通が健全化されるということは、新車の販売にもつながると考える。

 フィリピン新車ディーラーでの中古車の下取りは極端に少ない。その理由は、ブローカーが活躍できる市場であるためだ。一方、日本では80年代以降にオークション流通や中古車情報誌などの発行が拡大した。それにより中古車の市場価値がわかりやすくなっていきブローカーの出番が少しずつ減っていった経緯がある。文化や慣習が異なるため日本の過去の経験すべてをフィリピンに横展開することはできないが、トヨタサンタローサなどの日系ディーラーであれば、日本がたどってきた中古流通市場の変化や具体的な政策、制度など、フィリピンで展開できるのか検討していく価値があると考える。

◆フィリピンで自動車ビジネスを行う魅力と課題

 桑原社長は「フィリピン自動車市場の課題として、まだ急成長に我々が追いつけていないと言うことがあります。またフィリピン全体で見るとファイナンスの金利上昇等が起こらないかなどは重要なポイントです」と語る。フィリピンでは新車購入の65%ほどがファイナンスを利用するという。新中間層の場合は、月のローン支払いが15000から20000ペソ。月給が2万から3万ペソ(親+兄弟で一緒に支払いを行い)、1台目が購入できたら、次に2台目を購入していくと言うパターンが多いようだ。ファイナンスの頭金は20%、金利は19%。トヨタ車購入の場合は、トヨタファイナンス利用率は半分くらいだという。自動車市場の拡大期においては、ファイナンスの使いやすさはとても重要なファクターとなろう。

 フィリピン自動車ビジネスの魅力を尋ねると「フィリピン自動車市場には、大きなポテンシャルがあります。間違いなくこれから車の需要が伸びていくことになると思います。フィリピンでは鉄道、地下鉄などの交通インフラもまだ行き届いておらず、完成までに10年はかかる、その間は余程のことがない限り車の市場は落ち込まないと思います」(桑原社長)。更に「日本のオペレーションをフィリピンにも普及させていくことが、フィリピンに我々が来た意味だと考えます。日本が全てとは思わないですが、日本の良いところをフィリピンに伝えていきたい。25年、30年の自動車ビジネスで培った経験をフィリピンに残し、自動車ビジネスに関わる皆が幸せになってほしい。それが実現できたら嬉しいです」と語る。

 フィリピンの自動車市場にはまだまだ開拓の余地が残されており、巨大で高いポテンシャルを持つという魅力がある。フィリピンに進出した日系企業が、日本で培った過去の経験を伝えていくことは、フィリピン自動車市場の健全な拡大だけでなく日本の自動車メーカーの更なる発展につながるだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

オークション

企業・団体

店舗情報

ひと

相場・統計

新製品

新車ランキング

中古車ランキング

年頭所感

整備

板金