冠水車の健全流通のためNAKなどがデータベース構築の協力を呼びかけ
お盆休み中の関東地方を記録的な集中豪雨が襲った。千葉県内を中心に、線状降水帯による集中豪雨が猛威をふるい、千葉市や佐倉市、いすみ市などで計10人の死亡が確認された(8月17日現在)。今回の豪雨では、千葉市で12時間雨量が348㍉㍍に達した。わずか半日の間に、例年8月の1カ月分の雨量の3倍の雨量に上る記録的大雨だった。千葉県内22市町で「レベル5」の大雨特別警報が発表され、約20万世帯が避難指示を受ける大災害に見舞われた。今回の大災害の中では、特に自動車走行中の冠水被害などが大きくクローズアップされた。都市型災害のリスクとして注目が集まり、冠水による走行不能車が路上に放置された数は、千葉県内で少なくとも2700台規模に上るという。こうした中で、われわれ自動車業界では、災害による「冠水車」(全損扱い)の適正流通の重要性を改めて考えていかなければならない。 (室田一茂)
【近年急増する大雨被害と線状降水帯の脅威】
気象庁の発表資料によると、日本全国の大雨災害発生状況は、確実に増加している。全国アメダスの「1時間降水量50㍉㍍以上」発生回数は、統計期間の最初10年間(1976年~85年)の約226回に比べ、直近10年間(2016年~25年)は約1.5倍の約340回に増加している。統計期間の最初と最後までに10年あたり27.8回も増加しているという計算だ。これよりさらに降水量が多い「1時間降水量80㍉㍍以上」の年間発生件数は、最近10年間(16年~25年)の平均発生回数は、約25回で、最初10年間(76年~85年)の約14回から約1.8倍も増加している。「1時間降水量100㍉㍍以上」の年間発生件数は、最近10年間(16年~25年」は約4.4回で、最初10年間(76年~85年)の約2.2回の約2倍に増加している。こうした指標を見るだけでも大雨災害の発生頻度が増加していることは明らかだが、より強度の強い雨ほど増加率が高くなっているという。
気象庁では「1時間降水量80㍉㍍以上」「3時間降水量150㍉㍍以上」「日降水量300㍉㍍以上」など強度の強い雨は、1985年頃と比較して、概ね2倍程度に頻度が増加しているとし「線状降水帯」のような発達した積乱雲による影響が頻発している状況だ。
【都市部の冠水被害の多くは「内水氾濫」が要因】
背景には気温上昇に伴って大気中の水蒸気量が増加、地球温暖化が影響している可能性が指摘されている。単に雨が降る日が増えているのではなく、一度降ると「狭い範囲に、一気に、猛烈な量が降る」という雨の降り方の集中化と激甚化が全国的な課題となっている。こうした中で、被害の傾向も以前のような「川の氾濫」「堤防決壊」などによるものだけでなく「内水氾濫」と呼ばれる大量の雨水が下水道や排水路の処理能力を超え、街中にあふれ出す現象も都市部で発生する大雨被害の大きな要因だ。今回の千葉県での道路冠水の事例も大半がこの「内水氾濫」が原因だったという。
【「冠水車」の不正流通排除に向け、公取協は23年に規約改正】
~「冠水車」と知りながらかくして販売する行為は「不当表示」とみなす規定を新設~
大雨災害などによる「冠水車」の不正な中古車流通によるエンドユーザーの被害が問題視されている。自動車公正取引協議会(公取協)では、消費者庁からの問い合わせや社会的要請を受け「冠水車」が重大な欠陥であるとの認識のもと、規約改正の検討を進め、2023年4月には「冠水車」という事実を知りながら販売する行為を「不当表示」とみなす規定を新設した。周知の通り「不当表示」はメーター改ざんと並び、初回から厳重警告、違約金、事業者名公表が可能な最も厳しい措置基準が設けた。
「冠水車」が流通することによる潜在的なリスクと消費者被害には、①ハーネス内部に泥水が侵入し、のちに電装系トラブルによる突然の停止や発火のリスクがある、②実質的に修理不能なケースも多い、③購入者が気付かず乗り続け、乗り換えなどで手放す際に発覚する「隠れ冠水車」が市場に存在する、④高級スポーツカーの走行中火災事例にも冠水歴の疑いが指摘されているなどが挙げられる。電装系トラブルや火災など深刻な安全リスクを伴うため、適正な情報開示と流通経路の管理が重要で、修復歴隠しや走行距離改ざんなど、他の不正事案と同様に、業界全体のコンプライアンス意識の向上が求められる。
一方で「冠水車」には、判断と定義の困難さがある。「冠水車」の「表示義務化」が見送られた背景には判断の難しさがあることや「きれいに修理された場合、プロの検査員でも見抜くことが困難」、「どこからが冠水車とするかの統一された定義が存在しない」「規約上は『査定協会またはオートオークション(AA)で冠水車と判断されたもの』という運用上の定義に止め、意図的に隠す悪質業者を罰する運用としている」などの規約上の課題が存在する。
中古車流通における「冠水車」の不正流通の要因には、AA検査の限界も挙げられる。AA会場で「冠水車」を仕入れ、クリーニング後に再出品する業者が存在することや、AA検査の過程で冠水痕跡が見逃されるケースのほか、高年式・高額車が狙われやすいなどの手口の巧妙化が不正流通を排除しきれないという点が課題だ。
公取協では、中古車の適正な流通のため「不当表示に対して、ユーザーからの「消費者相談対応」を行っており、会員・非会員を問わず、消費者からの相談を受け付け、当事者解決を基本に助言を行っている。会員の規約違反に対しては是正措置や支援を実施、非会員の不当表示の場合は消費者庁への情報提供も検討しているという。また、公取協では「冠水車」について「中古車として消費者に販売するには適さない」という確固たる方針を示しており、われわれ業界としても、消費者(エンドユーザー)の不利益となる「冠水車」の不正流通を防ぐための取り組みを推進していかなければならない。
【NAKは走行管理システムにおける「冠水車」情報の充実を図る】
~業界全体として不正な中古車流通を排除し業界健全化へ~
国内オートオークション(AA)の業界団体である日本オートオークション協議会(北口武志会長、NAK)では2024年9月「冠水車判定ガイドライン」を策定するとともに、同年11月には個別検索システムにおいて参考情報として「冠水車情報」開示をスタートした。現在のところ、NAKの走行メーター管理システムには「AA会場で冠水と判断したデータ」「オークスモビリティが保有するデータ」(21年12月から登録開始)が登録されているが「業界全体を挙げての情報データベースの構築が不可欠」(業界関係者)という声がある。NAK加盟のAA会場からも「冠水情報が登録されていればクレーム防止になる」「全会場で『履歴あり』評価を統一すべき」「NAKのデータマッチや履歴登録でトラブルが減る」「事前情報や履歴確認で多くのトラブルが防げている」「クレームの多くは未申告、不明確な車歴による」といった意見があり、損害車専門業者や損害保険会社からの情報提供にも期待しているという。
一方、AA会場での判断の難しさとルールの統一要望も強く寄せられている。「冠水の定義が難しく、判断基準がAA会場ごとに異なる」などの理由から、ルールの統一も求める声が多い。NAKでは会員企業などからの声を受けて、BtoBの先にあるエンドユーザー(消費者)保護のための早期情報開示の重要性を訴えている。
こうした中、昨年11月には、損害車両専門のAAを運営するオークスモビリティ(東京都新宿区、市川進一社長)がNAKに正式加盟した。同社は、自然災害の増加に伴い冠水車などの損害車両の市場流通が増加傾向にある中、不正流通の防止と透明性の高い流通の確保を目的にNAKとの連携を図ってきた。21年12月から冠水車情報をNAKのデータベースに登録しており、NAKへの正式加盟により、その連携をさらに強め、流通健全化に貢献していく構え。
NAKは2001年4月の発足以来、中古車流通業界の健全な発展と信頼性の高い中古車供給のため「走行メーター管理システム」の運用など、事業者間ネットワークを構築している。AA会場をはじめ、中古車を扱う事業者から走行距離などに関する正確な情報を入手、データベース構築に努め、不正な中古車流通の防止に大きな役割を果たしている。
一方、「冠水車」においては、現在のデータカバー率は全流通量の20~25%程度に止まっているという。逆に言うと、全体の75~80%の冠水車が適切に流通したかどうかを確かめられないということだ。「高級車を中心にクリーニング後に履歴を隠して出品される事例が後を絶たない」「軽自動車でも同様の手法が増加傾向」というのが実情だ。
NAKによるデータベースの充実で透明性のある情報開示を推進することは、不正による「冠水車」の国内流通を抑制する直接的なフィルターとなることから「走行メーター改ざん車」の不正流通や「修復歴車」の不当表示などと同様に「冠水車」の不正流通が大きく減少することが期待できる。業界全体として、悪意のある「冠水車」流通を排除し、消費者が安心して中古車を買うことができる業界健全化の流れを作っていくことが業界の永続的な発展につながることは間違いない。
【近年急増する大雨被害と線状降水帯の脅威】
気象庁の発表資料によると、日本全国の大雨災害発生状況は、確実に増加している。全国アメダスの「1時間降水量50㍉㍍以上」発生回数は、統計期間の最初10年間(1976年~85年)の約226回に比べ、直近10年間(2016年~25年)は約1.5倍の約340回に増加している。統計期間の最初と最後までに10年あたり27.8回も増加しているという計算だ。これよりさらに降水量が多い「1時間降水量80㍉㍍以上」の年間発生件数は、最近10年間(16年~25年)の平均発生回数は、約25回で、最初10年間(76年~85年)の約14回から約1.8倍も増加している。「1時間降水量100㍉㍍以上」の年間発生件数は、最近10年間(16年~25年」は約4.4回で、最初10年間(76年~85年)の約2.2回の約2倍に増加している。こうした指標を見るだけでも大雨災害の発生頻度が増加していることは明らかだが、より強度の強い雨ほど増加率が高くなっているという。
気象庁では「1時間降水量80㍉㍍以上」「3時間降水量150㍉㍍以上」「日降水量300㍉㍍以上」など強度の強い雨は、1985年頃と比較して、概ね2倍程度に頻度が増加しているとし「線状降水帯」のような発達した積乱雲による影響が頻発している状況だ。
【都市部の冠水被害の多くは「内水氾濫」が要因】
背景には気温上昇に伴って大気中の水蒸気量が増加、地球温暖化が影響している可能性が指摘されている。単に雨が降る日が増えているのではなく、一度降ると「狭い範囲に、一気に、猛烈な量が降る」という雨の降り方の集中化と激甚化が全国的な課題となっている。こうした中で、被害の傾向も以前のような「川の氾濫」「堤防決壊」などによるものだけでなく「内水氾濫」と呼ばれる大量の雨水が下水道や排水路の処理能力を超え、街中にあふれ出す現象も都市部で発生する大雨被害の大きな要因だ。今回の千葉県での道路冠水の事例も大半がこの「内水氾濫」が原因だったという。
【「冠水車」の不正流通排除に向け、公取協は23年に規約改正】
~「冠水車」と知りながらかくして販売する行為は「不当表示」とみなす規定を新設~
大雨災害などによる「冠水車」の不正な中古車流通によるエンドユーザーの被害が問題視されている。自動車公正取引協議会(公取協)では、消費者庁からの問い合わせや社会的要請を受け「冠水車」が重大な欠陥であるとの認識のもと、規約改正の検討を進め、2023年4月には「冠水車」という事実を知りながら販売する行為を「不当表示」とみなす規定を新設した。周知の通り「不当表示」はメーター改ざんと並び、初回から厳重警告、違約金、事業者名公表が可能な最も厳しい措置基準が設けた。
「冠水車」が流通することによる潜在的なリスクと消費者被害には、①ハーネス内部に泥水が侵入し、のちに電装系トラブルによる突然の停止や発火のリスクがある、②実質的に修理不能なケースも多い、③購入者が気付かず乗り続け、乗り換えなどで手放す際に発覚する「隠れ冠水車」が市場に存在する、④高級スポーツカーの走行中火災事例にも冠水歴の疑いが指摘されているなどが挙げられる。電装系トラブルや火災など深刻な安全リスクを伴うため、適正な情報開示と流通経路の管理が重要で、修復歴隠しや走行距離改ざんなど、他の不正事案と同様に、業界全体のコンプライアンス意識の向上が求められる。
一方で「冠水車」には、判断と定義の困難さがある。「冠水車」の「表示義務化」が見送られた背景には判断の難しさがあることや「きれいに修理された場合、プロの検査員でも見抜くことが困難」、「どこからが冠水車とするかの統一された定義が存在しない」「規約上は『査定協会またはオートオークション(AA)で冠水車と判断されたもの』という運用上の定義に止め、意図的に隠す悪質業者を罰する運用としている」などの規約上の課題が存在する。
中古車流通における「冠水車」の不正流通の要因には、AA検査の限界も挙げられる。AA会場で「冠水車」を仕入れ、クリーニング後に再出品する業者が存在することや、AA検査の過程で冠水痕跡が見逃されるケースのほか、高年式・高額車が狙われやすいなどの手口の巧妙化が不正流通を排除しきれないという点が課題だ。
公取協では、中古車の適正な流通のため「不当表示に対して、ユーザーからの「消費者相談対応」を行っており、会員・非会員を問わず、消費者からの相談を受け付け、当事者解決を基本に助言を行っている。会員の規約違反に対しては是正措置や支援を実施、非会員の不当表示の場合は消費者庁への情報提供も検討しているという。また、公取協では「冠水車」について「中古車として消費者に販売するには適さない」という確固たる方針を示しており、われわれ業界としても、消費者(エンドユーザー)の不利益となる「冠水車」の不正流通を防ぐための取り組みを推進していかなければならない。
【NAKは走行管理システムにおける「冠水車」情報の充実を図る】
~業界全体として不正な中古車流通を排除し業界健全化へ~
国内オートオークション(AA)の業界団体である日本オートオークション協議会(北口武志会長、NAK)では2024年9月「冠水車判定ガイドライン」を策定するとともに、同年11月には個別検索システムにおいて参考情報として「冠水車情報」開示をスタートした。現在のところ、NAKの走行メーター管理システムには「AA会場で冠水と判断したデータ」「オークスモビリティが保有するデータ」(21年12月から登録開始)が登録されているが「業界全体を挙げての情報データベースの構築が不可欠」(業界関係者)という声がある。NAK加盟のAA会場からも「冠水情報が登録されていればクレーム防止になる」「全会場で『履歴あり』評価を統一すべき」「NAKのデータマッチや履歴登録でトラブルが減る」「事前情報や履歴確認で多くのトラブルが防げている」「クレームの多くは未申告、不明確な車歴による」といった意見があり、損害車専門業者や損害保険会社からの情報提供にも期待しているという。
一方、AA会場での判断の難しさとルールの統一要望も強く寄せられている。「冠水の定義が難しく、判断基準がAA会場ごとに異なる」などの理由から、ルールの統一も求める声が多い。NAKでは会員企業などからの声を受けて、BtoBの先にあるエンドユーザー(消費者)保護のための早期情報開示の重要性を訴えている。
こうした中、昨年11月には、損害車両専門のAAを運営するオークスモビリティ(東京都新宿区、市川進一社長)がNAKに正式加盟した。同社は、自然災害の増加に伴い冠水車などの損害車両の市場流通が増加傾向にある中、不正流通の防止と透明性の高い流通の確保を目的にNAKとの連携を図ってきた。21年12月から冠水車情報をNAKのデータベースに登録しており、NAKへの正式加盟により、その連携をさらに強め、流通健全化に貢献していく構え。
NAKは2001年4月の発足以来、中古車流通業界の健全な発展と信頼性の高い中古車供給のため「走行メーター管理システム」の運用など、事業者間ネットワークを構築している。AA会場をはじめ、中古車を扱う事業者から走行距離などに関する正確な情報を入手、データベース構築に努め、不正な中古車流通の防止に大きな役割を果たしている。
一方、「冠水車」においては、現在のデータカバー率は全流通量の20~25%程度に止まっているという。逆に言うと、全体の75~80%の冠水車が適切に流通したかどうかを確かめられないということだ。「高級車を中心にクリーニング後に履歴を隠して出品される事例が後を絶たない」「軽自動車でも同様の手法が増加傾向」というのが実情だ。
NAKによるデータベースの充実で透明性のある情報開示を推進することは、不正による「冠水車」の国内流通を抑制する直接的なフィルターとなることから「走行メーター改ざん車」の不正流通や「修復歴車」の不当表示などと同様に「冠水車」の不正流通が大きく減少することが期待できる。業界全体として、悪意のある「冠水車」流通を排除し、消費者が安心して中古車を買うことができる業界健全化の流れを作っていくことが業界の永続的な発展につながることは間違いない。


