自動車業界特化型税理士 酒井将人
『第1話:開業準備をしよう!』
個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。
【今回のテーマ】
自動車販売会社での勤務を経て、ついに独立を決意した酒井くんと相川さん。酒井くんは「個人事業主」として、相川さんは「法人」を設立して開業することにしたのですが、いざ開業をするにあたっては、その準備段階として、色々なことを決めていかなければなりません。個人事業主と法人、それぞれどのようなことを決めなければならないのか、具体的な内容とその違いについて見ていきたいと思います。
【個人事業主の開業準備】
(1)屋号
個人事業主として開業するための第一歩は「屋号」を決めることから始まります。屋号とは、個人事業主が事業で使用する名称のことで、法人における「商号(会社名)」に相当するものです。自動車販売店の場合には店舗名として長きにわたって付き合っていく名称ですから、様々な想いを込めて、慎重に決定すると良いでしょう。酒井くんは、悩みに悩んだ結果「酒井モータース」という屋号に決めました。
(2)納税地
酒井くんは、屋号の検討と並行して店舗を構える場所探しを行っていました。そして、条件に合った物件を見つけ、大家さんとの間で賃貸借契約を締結しました。所得税の確定申告書は、提出時の「納税地」を所轄する税務署長に提出することになっていて、この納税地は、原則として個人の「住所地」になります。しかし、納税地の特例制度により、住所地の他に事業所などがある場合には、その事業所などの所在地を納税地にすることができるため、酒井くんは契約した店舗の所在地を納税地にすることにしました。
【法人の開業準備】
(1)組織形態
法人は大きく分けると株式会社などの営利法人とNPO法人などの非営利法人に分かれますが、車屋を始める場合は、営利法人である「株式会社」か「合同会社」のいずれかを選択するのが一般的です。両社の税務上の取り扱いは概ね同じですが、知名度は「株式会社」に、設立時の費用負担面では「合同会社」にそれぞれ軍配が上がります。相川さんは、やはり知名度の観点から「株式会社」を選択することにしました。
(2)商号
株式会社として法人を設立することにした相川さんは、会社の名前である「商号」をどうするか悩んでいます。商号に使える文字は、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、数字と「&(アンパサンド)」、「’(アポストロフィー)」、「,(コンマ)」、「-(ハイフン)」、「.(ピリオド)」、「・(中点)」の6つの符号で、商号の前か後に必ず「株式会社」の文字を入れなければなりません。相川さんは、商号の後に株式会社を付けるいわゆる「後株(あとかぶ)」の方がお客様に会社名を覚えてもらいやすいと考え、「アイカワオート株式会社」という商号に決めました。
(3)機関設計
ひと昔前までは株式会社を設立するためには、役員は取締役3名以上と監査役、資本金は1,000万円以上という要件がありましたが、現行会社法の下では、取締役1名のみ、資本金1円から株式会社を設立することができます。相川さんは、機関設計は最もシンプルな役員も株主も自分自身のみである「ひとり株式会社」とし、資本金として500万円を準備することにしました。
(4)本店所在地
相川さんも、酒井くんと同様に法人の開業準備として店舗を構える場所探しを行っていました。そして、条件に合った物件を見つけ、大家さんとの間で賃貸借契約を締結したのですが、まだ法人設立を行っていないので、いったん個人で契約することになりました。近いうちに法人を設立すること、その場所を法人の本店所在地とすることを大家さんに伝えて了承を得ているので、法人設立が済んだら、契約者を個人から法人へ変更する手筈となっています。
(5)設立日と決算月
法人の設立日は、法務局に設立登記申請を行った日となります。また、法人の決算月は、設立日から1年を超えない範囲であれば自由に設定することができます。相川さんは、年度末や年末といった節目に拘りがあった訳ではありませんが、設立1期目の期間をなるべく長く取るために「12月決算」を選択しました。
【今回のまとめ】
今回は、開業を決意した後に「決めるべきこと」についてご紹介しました。個人事業主でも法人でも、まず「名前」と「場所」は必ず決めなければなりません。また、法人の場合には、それに加えて「役員をどうするか」「決算月をどうするか」などについても事前に決めておくと良いでしょう。
【著者紹介・取材協力】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。
【今回のテーマ】
自動車販売会社での勤務を経て、ついに独立を決意した酒井くんと相川さん。酒井くんは「個人事業主」として、相川さんは「法人」を設立して開業することにしたのですが、いざ開業をするにあたっては、その準備段階として、色々なことを決めていかなければなりません。個人事業主と法人、それぞれどのようなことを決めなければならないのか、具体的な内容とその違いについて見ていきたいと思います。
【個人事業主の開業準備】
(1)屋号
個人事業主として開業するための第一歩は「屋号」を決めることから始まります。屋号とは、個人事業主が事業で使用する名称のことで、法人における「商号(会社名)」に相当するものです。自動車販売店の場合には店舗名として長きにわたって付き合っていく名称ですから、様々な想いを込めて、慎重に決定すると良いでしょう。酒井くんは、悩みに悩んだ結果「酒井モータース」という屋号に決めました。
(2)納税地
酒井くんは、屋号の検討と並行して店舗を構える場所探しを行っていました。そして、条件に合った物件を見つけ、大家さんとの間で賃貸借契約を締結しました。所得税の確定申告書は、提出時の「納税地」を所轄する税務署長に提出することになっていて、この納税地は、原則として個人の「住所地」になります。しかし、納税地の特例制度により、住所地の他に事業所などがある場合には、その事業所などの所在地を納税地にすることができるため、酒井くんは契約した店舗の所在地を納税地にすることにしました。
【法人の開業準備】
(1)組織形態
法人は大きく分けると株式会社などの営利法人とNPO法人などの非営利法人に分かれますが、車屋を始める場合は、営利法人である「株式会社」か「合同会社」のいずれかを選択するのが一般的です。両社の税務上の取り扱いは概ね同じですが、知名度は「株式会社」に、設立時の費用負担面では「合同会社」にそれぞれ軍配が上がります。相川さんは、やはり知名度の観点から「株式会社」を選択することにしました。
(2)商号
株式会社として法人を設立することにした相川さんは、会社の名前である「商号」をどうするか悩んでいます。商号に使える文字は、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、数字と「&(アンパサンド)」、「’(アポストロフィー)」、「,(コンマ)」、「-(ハイフン)」、「.(ピリオド)」、「・(中点)」の6つの符号で、商号の前か後に必ず「株式会社」の文字を入れなければなりません。相川さんは、商号の後に株式会社を付けるいわゆる「後株(あとかぶ)」の方がお客様に会社名を覚えてもらいやすいと考え、「アイカワオート株式会社」という商号に決めました。
(3)機関設計
ひと昔前までは株式会社を設立するためには、役員は取締役3名以上と監査役、資本金は1,000万円以上という要件がありましたが、現行会社法の下では、取締役1名のみ、資本金1円から株式会社を設立することができます。相川さんは、機関設計は最もシンプルな役員も株主も自分自身のみである「ひとり株式会社」とし、資本金として500万円を準備することにしました。
(4)本店所在地
相川さんも、酒井くんと同様に法人の開業準備として店舗を構える場所探しを行っていました。そして、条件に合った物件を見つけ、大家さんとの間で賃貸借契約を締結したのですが、まだ法人設立を行っていないので、いったん個人で契約することになりました。近いうちに法人を設立すること、その場所を法人の本店所在地とすることを大家さんに伝えて了承を得ているので、法人設立が済んだら、契約者を個人から法人へ変更する手筈となっています。
(5)設立日と決算月
法人の設立日は、法務局に設立登記申請を行った日となります。また、法人の決算月は、設立日から1年を超えない範囲であれば自由に設定することができます。相川さんは、年度末や年末といった節目に拘りがあった訳ではありませんが、設立1期目の期間をなるべく長く取るために「12月決算」を選択しました。
【今回のまとめ】
今回は、開業を決意した後に「決めるべきこと」についてご紹介しました。個人事業主でも法人でも、まず「名前」と「場所」は必ず決めなければなりません。また、法人の場合には、それに加えて「役員をどうするか」「決算月をどうするか」などについても事前に決めておくと良いでしょう。
【著者紹介・取材協力】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。