自動車流通新聞第808号(2025年5月25日発行)

拡大
近年、市場規模を大きく拡大するレンタカー。全国レンタカー協会の統計によると、2024年3月末現在の全国レンタカー車両数は109万5711台に上る。10年前の14年統計では、63万1143台だったことを考えると、この10年で1.7倍以上に増大している。常に右肩上がりで推移する中、コロナ禍により、インバウンド需要と国内需要が急速に縮小したことを受け、21年は前年比4.0%減の88万4189台に車両数は減少したものの、22年以降は急速な需要回復の流れに乗って、大幅な拡大基調に入り、23年には100万台を突破、24年は110万台に迫る勢いを見せる。 (室田一茂)
【市場拡大のきっかけは相次ぐ規制緩和と「事業の許可」への移行】
レンタカー事業が存在感を示し始めたのは、1980年代頃から。当時は参入障壁も多かったが、相次ぐ規制緩和により、86年には車齢制限が廃止、89年にはリース車両をレンタカーとして使用することが可能になった。その後、2000年には車検証の有効期限も事業用車両とは差別化され「初回2年、以降1年ごと」になったほか、04年には「車両ごとの許可」から「事業の許可」へ改正されたことで、レンタカー事業への参入が相次いだ。いわゆる保険代車などで用いられる自社レンタカーもこの頃からで、中古車販売店や自動車整備工場などでもレンタカー事業を手がけるところが増えた。車検や買取りのフランチャイズチェーン(FC)と同様に、大手レンタカー事業者以外に、FC展開による中小規模事業者によるレンタカー事業の全国展開も急増していった。
【コロナ禍以降、大幅に需要拡大するレンタカー】
こうした中で、レンタスが運営するレンタカーFC「ニコニコレンタカー」は、25年3月実績を公表、貸渡回数と車両台数ともに過去最高を記録したという。貸渡回数は昨年8月の記録を更新し過去最高値を記録した。貸渡が好調な一方で、自社予約サイトなどで検索された際に「空車なし」と表示される割合(チャンスロス率)は昨年より7.3㌽増の38.1%に上ったという。約4割のユーザーの需要に応えられなかったということで、供給不足の状況は否めないようだ。
レンタカー需要増は、国内旅行需要の増大と合わせて、インバウンドの拡大も大きく影響している。24年の訪日観光客数と国内旅行消費額が過去最高を記録、コロナ禍後、観光需要は大きくV字回復している。25年に入ってもその勢いは衰えず、日本政府観光局(JNTO)による2月単月の訪日外国人数(推計値)は前年同月比16.9%増の325万8100人に達している。
【中小事業者では保険代車などの基盤に一般貸しが上乗せに】
中古車販売店や自動車整備工場では、レンタカーの基盤は保険代車などが主流で、一般向けに営業するところも少なかったが、ここ最近は大手FC加盟などで、予約システムなどを通じた一般ユーザーへの貸し出しが増加傾向にあるという。「以前は数えるほどだったが、昨年あたりから、週末を中心に個人への貸し出しが増えている。ネット予約を通じて、何もせずに予約が埋まっていくイメージ」(近畿地区の中古車販売店)という。こうした流れは確実に全国に浸透している。インバウンド需要が地方都市にも波及していることが一因と考えられるが、こうした中小規模のレンタカー事業者の貸し出し先は近隣ユーザーなどが中心だ。インバウンド需要や国内旅行向けは国際ブランドや大手事業者から埋まっていく。これまで「たまに予約が入ればいいかな」と思っていたレンタカーが急速な需要拡大で、収益の柱になりつつある販売店も少なくないのではないか。
<レンタカー事業を積極展開する中古車販売店を紹介>
【ケース① ワンズレンタカー新横浜店(横浜市港北区)】
~地域に根差した車社会の実現へ、中古車販売とレンタカーで新たな価値を創造~
横浜市港北区に拠点を構えるワンズレンタカー新横浜店(奥山容一社長)は、2010年の創業以来、地域住民の足となるべく、中古車販売とレンタカー事業を展開してきた。ガソリンスタンドでの副業からスタートしたという奥山社長は、「地域の方々の生活に欠かせない車を、より手軽に、そして安心して提供したい」という強い思いを胸に、事業を拡大してきた。15年目を迎える現在、手頃な価格帯の中古車販売と、必要な時だけ気軽に利用できるレンタカーサービスは、地域に深く浸透している。店舗には、レンタカーとして活躍していた車両が中古車として並ぶこともあり、利用者は実際に使用感を確かめながら購入を検討できるという独自の強みを持つ。
◆顧客ニーズに応える柔軟なサービス◆
レンタカー事業を始めた当初は苦戦したという奥山社長だが、中古車販売を本格的に開始して約10年、二つの事業の連携によって確かな相乗効果が生まれている。レンタカーとして使用し、不要になった車両を中古車として販売することで、効率的な車両の活用が可能となり、顧客に対しては比較的安価で提供できる。特に、車検切れが近い顧客に対しては、レンタカーを代車として提供することで、スムーズな乗り換えをサポートできる。また、事故による修理期間中の代車としてもレンタカーが活用でき、顧客の不便を最小限に抑えることが可能だ。売上の比率としては中古車販売が約9割と大きいものの、レンタカー事業は集客の入り口としての役割も担う。実際にレンタカーを利用した顧客が、その使用感を気に入って中古車の購入に至るケースも少なくない。奥山社長は「レンタカーを通じて、お客様との間に信頼関係を築くことができる。それが中古車販売にも繋がっている」と語る。
◆地域特性を活かした事業展開◆
現在、レンタカーの稼働台数は6台から10台程度、中古車の在庫もほぼ同数という同店だが、今後の事業拡大については慎重な姿勢を見せる。奥山社長は「現状維持が一番。無理に規模を拡大するよりも、今のお客様一人ひとりに寄り添ったサービスを提供し続けたい」と語る。
地域に根ざし、顧客のニーズに応えることを第一に考えるワンズレンタカー新横浜店の挑戦は、これからも続いていく。
【ケース② オートモバイル(横浜市瀬谷区)】
~レンタカー事業が店舗認知と販売促進に貢献、地域密着展開と独自プランで顧客ニーズに応える~
横浜町田インターチェンジ近く、八王子街道沿いに店舗を構えるオートモバイル(横浜市瀬谷区、實方秀人社長、屋号:カーポート横浜)。自動車ディーラーや大型中古車販売店がひしめく激戦区で、同社が展開するレンタカー事業が「新たな顧客との接点を生み出し、既存顧客との関係を強化する上で重要な役割を果たしている」という。
◆ユーザーニーズに応え独自プラン用意◆
實方社長は、レンタカーサービスが店舗の認知度向上と集客に大きく貢献していると語る。同社の「カーポートレンタカー」は、独自のプラン設定が特徴だ。8時間の短期利用はもとより、1週間、2週間に加え、1カ月という長期レンタカーを提供し、一時的な利用ニーズから長期的な移動手段の確保まで、幅広いユーザーに対応している。さらに、法人向けプランも用意し、ビジネスニーズにも応えている。
また、ゴールデンウィークや年末年始などの長期休暇期間には、ユーザーニーズや時期に合わせた特別企画を実施し、さらなる利用促進を図っている。車種のラインナップも豊富だ。経済的な軽自動車やファイミリー層に人気のミニバン、商用車から福祉車両まで、ユーザーは自身のライフスタイルや用途に合わせて最適な一台を選ぶことができる。
◆新規顧客の創出と中古車販売に繋げる◆
實方社長はレンタカー事業のメリットに、新規顧客の認知度向上を挙げる。駅から距離があるという立地条件を考慮し、同社は広範囲への集客ではなく、地域密着営業を展開する。既存顧客へのレンタカーサービスの積極的な提供は、顧客との関係性強化に繋がっている。一方で「ここに車屋さんがあるのを知らなかった」「レンタカーもやっているんですね」といった声が、レンタカーを利用した新規顧客から寄せられ、新たなユーザーとの接点を生み出している。レンタカーは、約20台用意。その多くは販売を目的とした展示車という。ユーザーはそのレンタカーを使用することで、乗り心地や使い勝手を体験し、納得した上で中古車を購入するという流れが生まれ、中古車販売にも繋がっている。地域顧客のニーズに寄り添い、利便性の高いレンタカーサービスを提供することで、地域におけるカーポート横浜の存在感を高め、中古車販売との相乗効果を追求していく。
【ケース③ カネマツ自動車(名古屋市昭和区)】
~レンタカーは収益の柱として重要なアイテム、リピーターの増加が成功につながる~
需要拡大を見越して約5年前からレンタカー事業を手掛けるカネマツ自動車(名古屋市昭和区、兼松幸生社長)は、自動車販売で培った信頼とノウハウを活かしながら、的確なマーケティングで事業を伸ばしている。現在では一般使用の車両を25台に増車、週末は100%に近い稼働率で運用している。元々整備・鈑金を主体としていた事業は、新車・中古車の販売、軽自動車の個人リースなど時代の変化にあわせて展開、レンタカー事業も新たなアイテムの1つとして注力している。
◆街の中心にある立地をメリットに変える◆
同社は名古屋市の中心から比較的近隣に店舗を構える。駐車場代が高いことから、自動車保有率の低いエリアに属する。一方、街の中心にあるからこそ、バスや電車などの公共交通機関が発達しており、店舗までのアクセスは良好だ。あわせて、経済的理由などから若者の自動車保有率も低下する中、レンタカー需要の高さに着目し、事業を開始した。レンタカー事業を始めるにあたって、「ニコニコレンタカー」FCに加盟、ある程度の知名度があることが理由だ。事業を始めた当初は、厳しい状況が続いたが、徐々に店舗の認知度が向上し、リピーターが増加、20代の若者を中心に、毎年20%以上の利用率増加を継続している。
◆レンタカー事業はリピーターづくりがカギ◆
兼松社長は「レンタカー事業成功のカギはリピーターづくり。コスト以上の価値を提供することが必要」と話す。そのため、内外装の清掃はもちろんのこと、点検整備に注力し、利用料金以上の価値を提供することで、快適かつ安心して利用できる環境を整えている。これは、自社整備工場を敷地内に構え、今まで自動車販売で培ったノウハウが生きている。この取り組みの結果、リピーターは増加、近隣はもちろん、遠方から公共交通機関を使用して借りに来るユーザーも多い。月間稼働率は平均60%以上を維持、週末はほぼ100%で、開店から利用客が並ぶほどの盛況ぶりを見せている。
◆レンタカーはまだまだ伸びる事業の1つ◆
「置かれた環境を見て、何をしなければいけないかを常に考えている。その中で、レンタカー事業は当社の置かれた環境に適した事業だと考える。新車価格の高騰や若者の車離れなどレンタカーの需要は今後高くなることが予想されるので、引き続き注力していきたい」(兼松社長)と話す。
【ケース④ フクユ(佐賀市)】
~SS事業を休止、車販とレンタカーの両輪で事業拡大へ、レンタカーで新たな集客、車販にも好影響~
ガソリンスタンド(SS)事業から新車・中古車販売事業に進出、SSならではの恵まれた好立地を武器に、地域密着の営業展開で顧客を拡大するフクユ(佐賀市、福地美江子社長)。同社がレンタカー事業に進出したのは2019年頃。開業から50年を迎える歴史あるSSだが、設備投資の必要性も迫る中、車販と合わせた収益の柱としてレンタカー事業を選択した。現在では、車販とレンタカー、保険、レッカーなどを総合展開する。
◆SSの好立地を生かした新車・中古車販売◆
同社が新車・中古車販売に乗り出したのは、約7年前。SS顧客向けに車検到来客への乗り換え提案を実施したところ、思いのほか反響があり、本格的に車販に注力することに。SSという来店型のビジネスを展開する中、ユーザーとの接触機会の多さは車販をする上で大きな武器になった。SSはマーケティングに適した施設とされるほど、近隣ユーザーの定期的な来店がある。こうした好条件も奏功し、SS顧客を中心に着々と車販を拡大した。当初は注文販売で月販1~2台だったが、SS事業を休止した現在、中古車の展示台数も常時25台前後を数え、月に10~15台を安定的に販売。こうした中で相乗効果の創出と、次なる収益事業として期待したのがレンタカーだった。
◆車販に加えてレンタカー事業に本格参入◆
19年にレンタカー事業を開始した際、カーベルが展開するレンタカーフランチャイズチェーン(FC)の「100円レンタカー」に加盟した。「新規事業ということで、ノウハウ『0』の中、スムーズに事業をスタートできたほか、スタート当初から本部運営の予約サイトから安定的な送客があった」(福地一哉店長)と、手応え十分だった。「誰にでもできるシステムで安定的に事業を展開できるほか、顧客からのニーズも取り込んだ」(福地店長)と、レンタカー客も安定的に増加した。
◆レンタカー事業は安定的に成長し収益基盤に◆
現在では12台程度のレンタカーを揃え、安定的に回転させる一方、加盟当初から増え始めたのはレンタカー客への車販だ。同社が用意するレンタカーの大半は中古車だが、レンタカーをそのまま販売する形での車販も着実に増えていった。メンテナンスが行き届いたレンタカーへの引き合いは強く、地域密着型ならではの安心感で、レンタカー事業も順調に拡大「将来的には観光需要の取り込みなどにも注力したい」(福地店長)という。