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個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。
【今回のテーマ】
「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、これまでの勤め人としてではなく、経営者の立場として初めての年末を迎えようとしています。勤め人だった頃は年末の楽しみでもあった年末調整、当時は「年末になると税金が少し戻ってくるもの」という認識しかなかった二人ですが、経営者としての立場から見た年末調整がどのようなものなのか、顧問税理士の協力のもと、年末調整に関する知識を深めるべく勉強をすることにしました。そこで今回は、法人の場合と個人事業主の場合それぞれについて、年末調整の仕組みや捉え方などをご紹介します。
【そもそも年末調整とは?】
年末調整とは、1年の間に給与や賞与から源泉徴収された所得税の過不足を「年末」に「調整」する手続きのことをいいます。
法人や個人事業主といった経営者(雇用者)は、役員や従業員に支払う給与や賞与から所得税額を概算で算出し、その分を差し引いて国に納付する「源泉徴収」を行っています。この源泉徴収をした所得税額はあくまでも概算であるため、各人ごとに1年分の所得額が確定する年末に、正確な所得税額を算出し、過不足を調整する必要があるのです。
【個人事業主と年末調整】
個人事業主として開業した酒井くんは、「第17話:自分に給与を払おう!」でご紹介したとおり、個人事業の儲け(利益)の一部を生活費や貯蓄といったプライベートのお金に充てたとしても「給与」という概念はなく、年末調整を受けることはありません。しかし、「第18話:家族に給与を払おう!【前編:個人事業主の場合】」でご紹介した青色事業専従者給与を家族に支払っている場合や、社員やアルバイトを雇用して給与や賞与を支払っている場合には雇用者として年末調整を行う必要があります。
【法人と年末調整】
法人を設立して開業した相川さんは、雇用者として役員や従業員に給与や賞与を支払う立場であるため、年末調整を行う側となります。さらに自分自身は、役員として自らが設立した法人から給与(役員報酬)の支払いを受ける立場でもあるため、年末調整を受ける側でもある訳です。
【年末調整の流れ】
勤め人だったころは、勤め先から言われるがままに書類を書いたり控除証明を提出していた酒井くんと相川さんですが、今後は雇用者として年末調整の流れを把握しておく必要があります。通常、年末調整の準備は10月下旬ごろからスタートしますが、その過程においては多くの書類のやり取りや作業が必要となるため、全体の流れを把握することがスムースに年末調整を進めるポイントとなります。
1.各種申告書の配付と回収
年末調整業務は、必要書類の配付と回収からスタートします。雇用者が配付して従業員等に記入を依頼する書類と、従業員等が自分で準備して雇用者に提出する書類がありますので、遅くとも11月下旬ごろには必要書類を回収できるように、年末調整の対象となる従業員等にアナウンスするようにしましょう。
2.年末調整の計算
12月分の給与や冬季賞与の額が決定し、年間の給与総額が確定したら、その年の給与支払額と各種控除額を計算し、その年に支払うべき所得税額を計算します。次にその所得税額とこれまで給与や賞与から源泉徴収してきた税額を比較し、源泉徴収税額の方が多かった場合にはその差額を還付し、少なかった場合は追加で徴収を行います。
3.各種書類の作成と提出
年末調整業務は、税金の計算をして従業員等に税金の還付(または追徴)をすれば全てが完了する訳ではありません。年末調整の計算後には、源泉徴収票、法定調書合計表、給与支払報告書などの書類を作成し、提出期限である翌年1月31日までにそれらの書類を税務署や市区町村へ提出する必要があります。また、源泉徴収票については従業員等本人への交付も必要となる他、年末調整に関連する業務として、源泉徴収が必要な報酬・料金や不動産使用料(家賃、地代など)を支払った際には、支払調書の作成と税務署への提出も必要となります。
【年末調整に必要な書類】
前述のとおり、年末調整では様々な書類を従業員等から回収する必要がありますが、雇用者から従業員に配付し、記入を依頼する書類は、以下の3つです。
1.扶養控除等(異動)申告書
この申告書は、年末調整において必須となる書類で、提出していない従業員等については、年末調整を行うことができません。年末調整では、当年分と翌年分の申告書を従業員に配布しますが、当年分の申告書は既に前年の年末調整時(中途入社の場合は入社時)に記入したものが手元にあるため、記入時点の状況に訂正や追記の必要がないかを確認のうえ、変更点がある場合は修正して再提出を依頼します。翌年分の申告書は、翌年1月以降の給与から源泉徴収する所得税の計算に使用するもので、こちらも年末調整のタイミングで配布・回収をしておきましょう。
2.基礎控除申告書兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
この申告書は、「基礎控除」「配偶者控除・配偶者特別控除」「所得金額調整控除」の申告書が1つになった書類で、すべての従業員等に対して配布・回収が必要となります。なお、令和6年分に関しては、「兼 年末調整に係る定額減税のための申告書」という「定額減税」のための申告書が追加されている点にも注意しましょう。
3.給与所得者の保険料控除申告書
この申告書は、従業員等がその年に支払った保険料の保険料控除を申告するために記入・提出する書類です。年末調整で申告できる保険料控除は、「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」の4種類で、該当する保険料がなく、これらの保険料控除を申告しない従業員については提出は不要ですが、控除が無いことを確認するために、氏名と住所のみ記入して提出してもらうようアナウンスしておくと良いでしょう。なお、保険料控除を適用する場合は、保険料控除申告書と併せて、保険料の支払いを証明する控除証明ハガキなどの提出も必要となります。
また、雇用者から配布する書類以外にも、次の2つの書類は該当する従業員等から回収する必要があります。
4.住宅借入金等特別控除申告書 および 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
住宅ローンを利用してマイホームの購入やリフォームなどをした従業員等が、住宅ローン控除の適用を受ける場合には、住宅借入金等特別控除申告書と住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の提出が必要となります。住宅ローン控除は、初めて受ける年のみ従業員等自身で確定申告を行う必要がありますが、2年目以降は年末調整で控除を受けることができます。なお、住宅借入金等特別控除申告書は初年度の確定申告後に所轄税務署から、住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書は毎年金融機関からそれぞれ適用を受ける従業員等宛に送付されるため、雇用者から配付すべき書類はありません。
5.前職分の源泉徴収票
年の途中での入社した従業員等のうち、その年の入社前の期間に他社からの給与収入があった場合は、前職分の源泉徴収票の提出が必要となります。もし、源泉徴収票の提出が間に合わない場合は、従業員等が自分で確定申告を行うことになりますので、中途入社の従業員等には必ず前職の有無を確認するようにしましょう。
【今回のまとめ】
今回は、年末調整の仕組みや捉え方についてご紹介しました。各種所得控除の解説や具体的な所得税の計算方法の説明については国税庁が発行しているパンフレット「年末調整のしかた」に詳しく掲載されていますので割愛しましたが、年末調整をスムーズに行うポイントは、どのような業務が発生するのかを正しく把握し、スケジュールを立て、事前にしっかりと準備をしておくことです。年末調整の仕組みを正しく理解し、書類の配付や回収、確認、給与・税額の計算といった煩雑な業務を効率よく進めていただければと思います。
【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『お
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