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個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。
【今回のテーマ】
「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、車屋を正式にオープンし、税理士との顧問契約も済ませました。そして、これから様々な経理実務が本格化するため、税理士と相談しながら、どのような「会計ソフト」を導入すべきか検討することにしました。そこで今回は、「会計ソフトの選び方」のポイントなどについて整理したいと思います。
【会計ソフトとは】
会計ソフトとは、会計処理を記録し、帳簿書類を作成するためのソフトウェアの総称です。会計ソフトを導入することで、事業に関する多様な計算が自動化され、会計業務を効率的に行うことができます。また、現金出納帳や総勘定元帳といった帳簿書類だけでなく、貸借対照表や損益計算書などの決算書類や、経営分析に役立つ様々な帳票の作成・出力が可能となっています。
<会計ソフトの主な機能>
□勘定科目の設定機能
…自社の経営実態に合わせて勘定科目を設定することができます。
□取引入力・仕訳機能
…出納帳形式や伝票形式、仕訳取込形式など様々な入力方法が選択可能です。
□集計・管理機能
…残高試算表の出力や、資金繰り資料の管理などを行うことができます。
□決算機能
…仕訳帳から総勘定元帳を作成し、決算書類の作成を行うことができます。
□経営分析機能
…予算実績管理や前年度との比較などを行うことができます。
<提供・市販されている主な会計ソフト>
□弥生会計(弥生株式会社)
□勘定奉行(株式会社オービックビジネスコンサルタント)
□クラウド会計ソフトfreee(フリー株式会社)
□マネーフォワードクラウド(株式会社マネーフォワード)
□会計王(ソリマチ株式会社)
【記帳代行と自計化】
事業者が行う会期処理の方法は「記帳代行」と「自計化(じけいか)」の2通りが存在します。記帳代行とは、税理士(税理士事務所)に会計ソフトへの仕訳入力などを委託することを言い、その税理士事務所が使用している会計ソフトで入力が行われます。一方、自計化とは、事業者自身が会計ソフトに日々の取引を入力することを言います。そのため、自身に合った適切な会計ソフト選びが重要となります。
<記帳代行の主なメリット>
□煩わしい会計業務を税理士に丸投げすることで、本業に集中できる。
□経理スタッフの人件費より記帳代行報酬を支払った方がコスト削減になる。
<記帳代行の主なデメリット>
□税理士事務所から記帳結果が上がってくるまで、業績を把握することができない。
□税理士事務所に任せきりになり、経営者の財務数値を読む力が養われない。
□税理士事務所に提出する資料の整理などが必要となる。
<自計化の主なメリット>
□タイムリーな業績把握により、財務数値が資金繰りや経営判断に役立つ。
□利益への関心、黒字経営への意識が高まり、その事業が強化される。
<自計化の主なデメリット>
□経理担当者に一定の知識が必要となり、負担が増えてしまう。
□会計ソフトの導入に一定のコストが必要となる。
□税理士事務所の顧問料が大幅に削減される訳ではない。
なお、個人事業主の酒井くんも、法人を設立した相川さんも、タイムリーに業績を把握して今後の経営判断に役立てたいこと、そして自分自身も経営者として成長しつつ事業を発展させていきたいという想いから、「自計化」を目指すことにしました。
【クラウド型とインストール型】
会計ソフトには、そのサービス提供形態の違いから「クラウド型」と「インストール型」に大別されます。クラウド型の会計ソフトは、データの保存場所がクラウド上にあり、インターネット経由でアクセスをしてソフトを運用します。そのためソフトを利用する際には、使用するパソコンなどのデバイスがインターネットに接続されている必要があります。一方、インストール型の会計ソフトは、ソフトをパソコンにインストールして運用するもので、オフライン環境でも使用することができます。
<クラウド型のメリット>
□月額または年額課金のサービスのため、導入時の初期費用を抑えることができる。
□ウェブブラウザ起動のため、OSやデバイスの環境に左右されずに利用が可能。
□バージョンアップや税制改正時の更新などが自動で行われるため手間が少ない。
<クラウド型のデメリット>
□インターネットに接続できない環境下では使用できず通信障害などの影響を受ける。
□提供機能の範囲内で利用するのが一般的で、独自機能の追加といった柔軟性が低い。
<インストール型のメリット>
□インターネット環境の影響を受けることなく、オフラインでも利用が可能。
□クラウド型と比べて処理速度が速い製品が多い。
□導入時に購入費用がかかるが、保守料などのランニングコストは低く設定されている。
<インストール型のデメリット>
□使用可能なOSやデバイスが限定されることが多い。
□ソフトのバージョンアップなどを手動で行う必要がある。
【無料ソフトと有料ソフト】
会計ソフトを利用する場合には、原則としてクラウド型の場合には月額または年額の利用料を、インストール型の場合にはソフトの購入費用と年間の保守料を支払う必要がありますが、中には無料で提供されている簡易的な会計ソフトや、有料ソフトの機能を一部制限することで無料で提供されているものも存在します。無料の会計ソフトを検討する場合には、各ソフト会社が公開している「無料で利用できる機能」と「有料でなければ利用することができない機能」を必ず確認し、自分自身にとって必要な機能やサービスが含まれているか否かを必ず確認するようにしましょう。
<無料ソフト利用時に確認すべきこと>
□無料で利用できる期間の定めがあるか。
□取引件数や仕訳件数に制限が無いか。
□決算書の作成や印刷などの基本機能に制限が無いか。
□データの保存機能などに制限が無いか。
□電話やチャットなどの保守サポートは利用可能か。
□税制改正などへの対応はどうなっているか。
【今回のまとめ】
会計ソフトを選ぶ際には、その会計ソフトの機能が事業形態に適しているか、自分にとって使い勝手が良いかという視点が大切になります。無料トライアル期間を設けていたり、体験版を無料でインストール可能なソフトがほとんどですので、まずは複数の会計ソフトを実際に動かして、使い勝手を確認してみると良いでしょう。
【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。
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