大学時代に感銘を受けた美術雑誌「アトリエ」を持つ永谷氏

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「私の場合は風景や静物の水彩画を描く事ですが、仕事を離れて趣味やスポーツなどで時間の経つことを忘れて没頭する。こうした自分だけの時間(文字通り自己満足の世界)を持つ事は我々社会人にとって非常に重要だと思います」
と語るのはシーエーエー(本社・愛知県豊田市)代表取締役社長の永谷敏行(ながたにとしゆき)氏。
同氏は幼少の頃から絵を描くことが好きで、それ以外にも時間があれば新聞や雑誌の活字を描写(レンダリング)していた。
また、絵画を観ることも好きで中学生の頃にはフランスの画家オディロン・ルドンなどのリトグラフ(版画)を部屋に飾っていたとのこと。
その後同氏は慶応義塾大学経済学部に進学したが、そこで美術サークルとしては古い歴史を持つ大学のパレットクラブ(美術団体)に入部。
最初は油絵を描いていたが、2年生の冬に、ある美術雑誌に掲載されていた「樋口治平(ひぐちじへい)」という画家の冬の絵を見て感動。
この絵は油彩画であったが、これを水彩画にするとどんな味わいがでるのか興味を持ち、自分で2枚ほど描いてみたのが水彩画を始めるきっかけとなった。
その後は同クラブに「水彩画パート」を立ち上げ、チーフとなって、鎌倉デッサンイベントや合同展示会を開催して水彩画の魅力を学内に広めていった。
学生時代は授業以外の時間は部室(アトリエ)で過ごしたとのこと。
水彩画は風景画や静物画が中心。
鉛筆でデッサンしたものに平筆や面相筆(極細筆)を使って色を載せていく。
画用紙と鉛筆共に水分を含ませる「Wet on Wet」や「Wet on Dry」などの技法を使い、透明感のある部分とやや厚塗りする部分のコントラスト効果を楽しむ。
場合によってはドライヤーを使って、瞬時に乾かして1枚の絵の中に自分の世界を創造する。
同氏は「重ね塗りが基本で修正が比較的安易な油絵と違い、絵の具をにじませながら一発本番・一期一会という一瞬の美学が水彩画にはあります。あとは油絵に比べて水彩画はお金がかからないのも、学生にとっては大きな魅力でした」
と水彩画の魅力を語る。
また、絵についてこんなエピソードも語ってくれた「トヨタに入社してドイツのフランクフルトモーターショーに出張に行った際に、足を伸ばしてルーヴル美術館に立ち寄ったのですが、あいにく休館日。ひどく落胆して仕方なく隣のオルセー美術館に行くと、中学時代に生まれて初めて買ったオディロン・ルドンのパステル画の原画と出会うことができました。最高に感動しました」
その他にも絵の魅力を「成功しているビジネスマンが絵画に興味をもっている場合も多く、絵が好きなことで取引先の方と仕事上の付き合い以上の親密な関係になることができたこともあります。
そして水彩画に限らず絵を描く事はストレス発散になります。
描いているときは時間を忘れますし、思い通りにできた後の充実感や達成感は何事にも替えがたい喜びです。一生付き合える趣味ですね」と語った。
最後に同氏は「社会人になってからデッサンは時々やっていますが、彩色の段階までは出来ていません。今は学生時代のように水彩画に没頭する時間が作れていません。しかし、これからは自分で時間を創り、自宅の部屋の壁を自作の水彩画でいっぱいにしたいです」と今後の夢を語ってくれた。
一般的にプロアマ含めて、絵を描く人は非常に多い。
なによりもペンと紙さえあれば、場所を選ばずどこでも始められるという点でも絵画はもっとも手軽な趣味だと言われている。
また、デジカメの画像から下絵を作成して、絵の具のような着色ができるパソコンのお絵かきソフトも存在する。
絵が描けないという人の殆どは自分で絵を描いた時に上手・下手だけでとらえている。
それは人に見せた時の反応に恐怖しているだけ。
本当に大事な事は自分のスタイルで描くこと。
絵を描こうという気持ちだけで、今まで見過ごしてきた風景が輝いて見えてくるのだそうだ。