BUDDICA
バディカ代表取締役・中野優作氏による新連載
クロージングとは一体何だろうか。
僕が入社して教えられたのは「買うまで帰すな!」だ。
今考えるとどう考えても間違っていると言えるが、未だにやっている会社もあるようだ。SNSなどで頻繁に目にする。熱意で粘り勝ちと言えば聞こえは良いけど、これは三流以下の押し売りだ
。
僕のYouTubeやSNSにも毎日のようにコメントが来るが、いくつか実際に視聴者から寄せられたコメントをあげよう。
✓今日だけの特別値引きだから明日になると高くなると脅されて即決した。
✓4時間ゴリゴリ押されて帰してくれそうにないので契約した。
✓長時間になり子供が泣き叫ぶので面倒になって契約した。
✓下取りの鍵を返してくれずに疲れてしまったので契約した。
✓新卒が上司に怒鳴られていたから可哀そうで契約した。
こういった内容を聞いて、同じ業界の人間として心の底から申し訳ない気持ちになる。中には店長や上司にやらされている人も多いだろうし、こうやれと教え込まれて他に方法を知らない人も少なくないだろう。
そういった現役の営業マンで苦しんでいる人からも相談のDMが絶えないからよく分かる。だけどこういった下手くそのゴリ押し商談はもう止めよう。続く筈がない。
ではトップセールスの人たちはどのようにクロージングをしているか?
想像してほしい。契約のタイミングを見ていれば分かるだろう。まるで流れるように注文書を取ってくる。傍から見ていれば、ただただ激アツの商談を引き続けているようにしか見えないだろう。クロージングとはそういうものだ。
【クロージングとは締めくくり作業】
クロージング(Closing)とは、直訳すると「終わり」や「締めくくり」などを意味する。つまり最後の契約に結び付ける最終局面だ。ここで後一押しとゴリゴリ行くのは間違いで、それはその前の段階の壁が壊せてないから前の車種選択からやり直すべきだ。つまり、ここにたどり着くまでに全ての壁が破壊し終わっていなければクロージングはかけられない。
今回このクロージングについて弊社の社員だけでなく現役のプレイヤーに沢山意見をもらった。年間何百台も販売する大手販売店の営業マンから、中堅企業で売り場の責任者をしているプレイングマネージャー、自らバンバン売っているカリスマ社長。皆さん年間何百台も売るすごい人たちだ。その人たちそれぞれ売り方は違うが、共通して言っていた事がある。
この2つだ。
✓クロージングまでに違和感を全て取り除く
✓お客様が選んだ1台にしておく
実はヒアリングした誰一人として、クロージングというものをかけている意識がなく、それまでに全ての問題を取り除いていた。そしてお客様から「買います」と言われて契約する。全員が口を揃えて言った。
僕の考えも同じだ。ここまでたどり着いた段階で、契約になったようなものだと考えている。そしてその壁を破壊した先には必ずお客様の笑顔が待っている。
【最後はプロとしての演出】
それでは締めくくりに入ろう。
これまでクルマと金額をセットで商談を進めてきたから予算は大丈夫だ。後は保証やオプションなどの細かな説明をしていこう。そこで見積金額を提示して問題なければ契約だ。
と、そうなればいいが、そうはいかない人も多いのではないだろうか?
実は、ここまで来て商談を外してしまうという相談が一番多い。
ここまで流れるように来ても、ここだけは、実は流してはいけない。
お客様に、今、決めてもらう為の演出が必要だ。
まずお客様の心理としては、理由がない限り、一旦家に持ち帰って一晩じっくり悩みたいだろう。クルマは家の次に高いと言われている買い物だ、そう思うのは当たり前だろう。絶対に失敗したくない。
だが理由があればどうだろうか?即決したくなる理由があれば状況は変わる。
つまり、その場で買いたくなる理由を演出すればいいのだ。
その為には3つのステップを踏んでもらおう。
基本原則はこれまでと同じで、クルマ探しの主役はあくまでお客様だ。
われわれ営業はお客様が楽しく契約してもらうお手伝いをする役割。最後に今日来てよかったと大満足して帰ってもらう為にやるという前提で読んで欲しい。
【ステップ1】
まずは2つの法則を利用する。それは「希少性の原則」と「損失回避の原則」だ。ここで車種選択のパートでやったことが効いてくる。
今商談しているスペーシアは、ここまで沢山のクルマの中から何度も見比べて、お客様自身で探し当てた希少な一台だ。もしいきなり現れた他のお客様に、「私が買うわ」と言われたらどういう気持ちになるだろうか?「ちょっと待て!僕が買うから!」となるだろう。自分が見つけたという「希少性の原則」と、他人に取られるという「損失回避の原則」だ。僕でもそうなる。
実際の手順はこうだ。
見積りをする前に席に案内して座ってもらう。そして、お客様に言う。「あのスペーシア、別の担当が商談中だったようで、売れてはないと思うんですが一応在庫状況確認しておきますね」と話そう。
すでに気に入っていた場合、欲しい気持ちが一気に加速するだろう。
ここで一旦席を離れて実際に在庫確認や書類や納期に問題が無いか確認しておく。そしてこの間に見積りを作ってお客様の元に戻ってこう話す「担当の営業に今確認中ですが、在庫は売れていなかったので安心して下さい。」ここでお客様がホッとした顔をすればいい感じだ。次に進もう。
【ステップ2】
次に見積もりの内容だ。ここに仕掛けをしておこう。端数をわざと使う。
今回のスペーシアの総額が115万円だから、下取りのワゴンRを11万円と提示しよう。すると支払 総額が104万円となる。端数が気持ち悪いだろう。
こちらが最高の笑顔で「少し半端になったんですが下取り頑張って104万円です」と提示しよう。するとお客様は言うだろう。「何とか100万円にならない?」。もう決まったも同然だ。恐らくそのままでも契約できるだろうが、さらに確率を高める為に最後のステップを踏もう。
「上司に確認してきますね」とか「ちょっと算盤叩いてきます」と頑張って来る演出をしよう。もちろん100万円は初めから決済を取っている。
そして最後の仕上げだ。
【ステップ3】
最後は、試乗してもらおう。
値引き交渉が入れば、「本部に確認中」と言ってその時間を使って試乗してもらおう。あなたが決裁権を持つ場合は「金額は頑張ってみるので先に試乗しましょう」と金額はこの場で回答せずに試乗してもらう。
試乗中には、運転した感じどうですか?から入り、今乗っているクルマから良くなった点、居住性や走り、燃費などをイメージしてもらって、通勤や休日に運転しているイメージを持ってもらうといいだろう。
お客様は自分がハンドルを握って運転して買った後をイメージしてしまっている。この状況で値段も納得していて他の人に買われるなんてことは耐えられないだろう。試乗から戻ったタイミングで落ち着いて聞こう。
慌てないで、自信を持って聞いてみよう。
「いかがでしたか?」と。答えは必ずこうだろう。
「これにします」
これで第四の壁「時期の壁」の破壊完了だ。
お客様は、何台も比較ながら自分で探し出したクルマを、値引き交渉を勝ち取り、試乗した上で、他にも欲しい人がいた中で、自分のタイミングで納得して購入している。「契約する気はなかったけど今日来てよかった。納車が楽しみだ」と満足していただけている事は間違いない。 (おわり)
【プロフィール】
中野優作(なかの・ゆうさく)氏。1982年3月香川県さぬき市生まれ。バディカ代表取締役社長。
中古車小売り大手で数万台を超える実戦経験で手腕を発揮したのち、2017年同社創業。最大手業販サイト、オートサーバーで「5ツ星認定」を受け、21年度「販売台数ナンバー1」(全国会員7万社中)に。「車の流通をもっと自由に、なめらかに」というミッションを持ち、圧倒的な努力と情熱で挑戦する。今年1月には「バディカダイレクト」を発表したばかり。趣味は「筋トレ」というストイックな側面は、事業への熱意や意識の高さにも通じる。
※バディカ代表取締役・中野優作氏によるコラムは今回が最終回です。中野氏の著書「クラクションを鳴らせ!」(幻冬舎刊)には、今回の連載で掲載した中野流の営業ノウハウや自身の経験に基づいた中古車業界への提言が詰め込まれており「おすすめの1冊」です!
僕が入社して教えられたのは「買うまで帰すな!」だ。
今考えるとどう考えても間違っていると言えるが、未だにやっている会社もあるようだ。SNSなどで頻繁に目にする。熱意で粘り勝ちと言えば聞こえは良いけど、これは三流以下の押し売りだ
。
僕のYouTubeやSNSにも毎日のようにコメントが来るが、いくつか実際に視聴者から寄せられたコメントをあげよう。
✓今日だけの特別値引きだから明日になると高くなると脅されて即決した。
✓4時間ゴリゴリ押されて帰してくれそうにないので契約した。
✓長時間になり子供が泣き叫ぶので面倒になって契約した。
✓下取りの鍵を返してくれずに疲れてしまったので契約した。
✓新卒が上司に怒鳴られていたから可哀そうで契約した。
こういった内容を聞いて、同じ業界の人間として心の底から申し訳ない気持ちになる。中には店長や上司にやらされている人も多いだろうし、こうやれと教え込まれて他に方法を知らない人も少なくないだろう。
そういった現役の営業マンで苦しんでいる人からも相談のDMが絶えないからよく分かる。だけどこういった下手くそのゴリ押し商談はもう止めよう。続く筈がない。
ではトップセールスの人たちはどのようにクロージングをしているか?
想像してほしい。契約のタイミングを見ていれば分かるだろう。まるで流れるように注文書を取ってくる。傍から見ていれば、ただただ激アツの商談を引き続けているようにしか見えないだろう。クロージングとはそういうものだ。
【クロージングとは締めくくり作業】
クロージング(Closing)とは、直訳すると「終わり」や「締めくくり」などを意味する。つまり最後の契約に結び付ける最終局面だ。ここで後一押しとゴリゴリ行くのは間違いで、それはその前の段階の壁が壊せてないから前の車種選択からやり直すべきだ。つまり、ここにたどり着くまでに全ての壁が破壊し終わっていなければクロージングはかけられない。
今回このクロージングについて弊社の社員だけでなく現役のプレイヤーに沢山意見をもらった。年間何百台も販売する大手販売店の営業マンから、中堅企業で売り場の責任者をしているプレイングマネージャー、自らバンバン売っているカリスマ社長。皆さん年間何百台も売るすごい人たちだ。その人たちそれぞれ売り方は違うが、共通して言っていた事がある。
この2つだ。
✓クロージングまでに違和感を全て取り除く
✓お客様が選んだ1台にしておく
実はヒアリングした誰一人として、クロージングというものをかけている意識がなく、それまでに全ての問題を取り除いていた。そしてお客様から「買います」と言われて契約する。全員が口を揃えて言った。
僕の考えも同じだ。ここまでたどり着いた段階で、契約になったようなものだと考えている。そしてその壁を破壊した先には必ずお客様の笑顔が待っている。
【最後はプロとしての演出】
それでは締めくくりに入ろう。
これまでクルマと金額をセットで商談を進めてきたから予算は大丈夫だ。後は保証やオプションなどの細かな説明をしていこう。そこで見積金額を提示して問題なければ契約だ。
と、そうなればいいが、そうはいかない人も多いのではないだろうか?
実は、ここまで来て商談を外してしまうという相談が一番多い。
ここまで流れるように来ても、ここだけは、実は流してはいけない。
お客様に、今、決めてもらう為の演出が必要だ。
まずお客様の心理としては、理由がない限り、一旦家に持ち帰って一晩じっくり悩みたいだろう。クルマは家の次に高いと言われている買い物だ、そう思うのは当たり前だろう。絶対に失敗したくない。
だが理由があればどうだろうか?即決したくなる理由があれば状況は変わる。
つまり、その場で買いたくなる理由を演出すればいいのだ。
その為には3つのステップを踏んでもらおう。
基本原則はこれまでと同じで、クルマ探しの主役はあくまでお客様だ。
われわれ営業はお客様が楽しく契約してもらうお手伝いをする役割。最後に今日来てよかったと大満足して帰ってもらう為にやるという前提で読んで欲しい。
【ステップ1】
まずは2つの法則を利用する。それは「希少性の原則」と「損失回避の原則」だ。ここで車種選択のパートでやったことが効いてくる。
今商談しているスペーシアは、ここまで沢山のクルマの中から何度も見比べて、お客様自身で探し当てた希少な一台だ。もしいきなり現れた他のお客様に、「私が買うわ」と言われたらどういう気持ちになるだろうか?「ちょっと待て!僕が買うから!」となるだろう。自分が見つけたという「希少性の原則」と、他人に取られるという「損失回避の原則」だ。僕でもそうなる。
実際の手順はこうだ。
見積りをする前に席に案内して座ってもらう。そして、お客様に言う。「あのスペーシア、別の担当が商談中だったようで、売れてはないと思うんですが一応在庫状況確認しておきますね」と話そう。
すでに気に入っていた場合、欲しい気持ちが一気に加速するだろう。
ここで一旦席を離れて実際に在庫確認や書類や納期に問題が無いか確認しておく。そしてこの間に見積りを作ってお客様の元に戻ってこう話す「担当の営業に今確認中ですが、在庫は売れていなかったので安心して下さい。」ここでお客様がホッとした顔をすればいい感じだ。次に進もう。
【ステップ2】
次に見積もりの内容だ。ここに仕掛けをしておこう。端数をわざと使う。
今回のスペーシアの総額が115万円だから、下取りのワゴンRを11万円と提示しよう。すると支払 総額が104万円となる。端数が気持ち悪いだろう。
こちらが最高の笑顔で「少し半端になったんですが下取り頑張って104万円です」と提示しよう。するとお客様は言うだろう。「何とか100万円にならない?」。もう決まったも同然だ。恐らくそのままでも契約できるだろうが、さらに確率を高める為に最後のステップを踏もう。
「上司に確認してきますね」とか「ちょっと算盤叩いてきます」と頑張って来る演出をしよう。もちろん100万円は初めから決済を取っている。
そして最後の仕上げだ。
【ステップ3】
最後は、試乗してもらおう。
値引き交渉が入れば、「本部に確認中」と言ってその時間を使って試乗してもらおう。あなたが決裁権を持つ場合は「金額は頑張ってみるので先に試乗しましょう」と金額はこの場で回答せずに試乗してもらう。
試乗中には、運転した感じどうですか?から入り、今乗っているクルマから良くなった点、居住性や走り、燃費などをイメージしてもらって、通勤や休日に運転しているイメージを持ってもらうといいだろう。
お客様は自分がハンドルを握って運転して買った後をイメージしてしまっている。この状況で値段も納得していて他の人に買われるなんてことは耐えられないだろう。試乗から戻ったタイミングで落ち着いて聞こう。
慌てないで、自信を持って聞いてみよう。
「いかがでしたか?」と。答えは必ずこうだろう。
「これにします」
これで第四の壁「時期の壁」の破壊完了だ。
お客様は、何台も比較ながら自分で探し出したクルマを、値引き交渉を勝ち取り、試乗した上で、他にも欲しい人がいた中で、自分のタイミングで納得して購入している。「契約する気はなかったけど今日来てよかった。納車が楽しみだ」と満足していただけている事は間違いない。 (おわり)
【プロフィール】
中野優作(なかの・ゆうさく)氏。1982年3月香川県さぬき市生まれ。バディカ代表取締役社長。
中古車小売り大手で数万台を超える実戦経験で手腕を発揮したのち、2017年同社創業。最大手業販サイト、オートサーバーで「5ツ星認定」を受け、21年度「販売台数ナンバー1」(全国会員7万社中)に。「車の流通をもっと自由に、なめらかに」というミッションを持ち、圧倒的な努力と情熱で挑戦する。今年1月には「バディカダイレクト」を発表したばかり。趣味は「筋トレ」というストイックな側面は、事業への熱意や意識の高さにも通じる。
※バディカ代表取締役・中野優作氏によるコラムは今回が最終回です。中野氏の著書「クラクションを鳴らせ!」(幻冬舎刊)には、今回の連載で掲載した中野流の営業ノウハウや自身の経験に基づいた中古車業界への提言が詰め込まれており「おすすめの1冊」です!