エコカー補助金、17ヶ月間の実施に幕
新車販売を取り巻く苦悩
エコカー補助金制度が9月7日の申請分をもって終了した。 2009年4月10日分から適用が開始された、自動車購入の公的な補助金制度は、約17ヶ月間の実施で幕を下ろした。 7月、国は補助金制度の実施ルールとして「9月30日までに新車登録がなされたもの、および、廃車が伴う場合は9月30日までに引取業者への引渡しも終わったものについて、10月29日までに申請すること」「但し、補助金対象車両の販売状況によっては、10月29日の申請期限を待たずに予算額(5837億円)を超える場合があり、その場合は申請期限よりも早く制度が終了する可能性がある」とアナウンスしていた。 8月初旬、補助金申請を受け付けている次世代自動車振興センターでは、連日30億円分を超える申請があることや、予算消化が近づいていることを明らかにし、期限よりも大幅に早く補助金の受け付けが終了するだろうと告知。駆け込み需要がいっそう過熱した。さらに、補助金の残額の計算に誤りがあり、9月6日発表分で130億円分もの誤差を修正。残額を一気に減らしたことで、補助金打ち切りが予想よりもさらに早まる結果となった。 困ったのは販売店だ。終了が近づいた段階では、顧客との商談の中でほぼ例外なく「補助金枠の残額がいくらで、日々の受け付け額がいくらだから、何日頃までは大丈夫だろう」という計算をし、もし補助金が間に合わなかった場合にどうするかということは顧客と話し合っていた。もらえない場合に備え、念書や同意書を取っているところも多かったようだ。 補助金の申請ができるのは、車の売買契約を交わした時点ではなく、陸運局での新規登録が完了してからだ。即納可能車がある場合を除き、一般的に新車の納期はまちまち。平常時ならば納期見込みと大きく狂うことは少ないが、注文が殺到している状況では事前に正確な見込みは立てにくい。だからこそ、顧客に対して「もらえない場合もありますよ」と説明し、納得してもらって契約していた。 しかし、それでも、ユーザーにとって最大25万円もらえるかもらえないかは大きい。ユーザーは駆け込みで買うぐらいだから、当然お金にはシビア。日本は経済的に豊かな国とはいえ、たいていの消費者にとって、新車を買うという行為はたやすいことではない。補助金という名の実質値引きがあるから思い切って買い換えたという人は多い。だから、もらえなかった場合の「うらみ節」が販売店に向く。「何とかしてくれるって言ったじゃないか」「間に合わない場合があると説明はしましたよ」「何日頃までは大丈夫だって言ったじゃないか」「絶対に間に合うと断言はしてないんですが」といった会話が、日本各所で展開されているようだ。 口頭のみで説明していた場合は、ほぼ例外なく揉めるだろうし、念書や同意書をとっていた場合でも一部の押しの強いユーザーは何らかの補填(サービス提供など)を求めるだろう。これらにどう対処するかは、なかなか頭の痛いところだ。「補助金は国の制度。我々に言われても困る」というのが販売店の本音だ。ただ、顧客と揉めて心証を悪くしては今後の修理や車検などのサービス入庫や、何年か後の買い換え営業の際などに深刻な影響を及ぼしかねない。 資金力のある販売店を中心に、間に合わなかった人に補填するといった動きも出ているようだ。また、オプション品のサービスなどに加え、下取車の再査定をやむなく実施し、金額を上乗せする動きが活発化しているようだ。「新車拠点から再査定の依頼が殺到している。たとえばゼロ査定だった車に5~10万円つけてほしいといった内容。中古車オークションで売却する時にいかに損を少なくするか頭が痛い」(ディーラー中古車部門担当者)といった声が聞かれる。これらの特別な補填策は、資金力に乏しい販売店ではなかなか踏み切れない。やむなくキャンセル要求に応じる例もみられるようだ。
【補助金終了の反動を懸念】
自動車という商品は、パソコンや携帯電話などのように、ひとりで何台も保有するといったぜいたくができる人は少数。ほとんどの人は、1台買い換えれば、次回の買い換えは数年以上先となる。そう
いった特性をもつ自動車という商品を、補助金という武器を用いて17ヶ月間という短期間で販売したわけだから、当然ながら補助金終了後の反動が懸念される。 販売の落ち込みはどの程度になるのか。各方面から「2割」という意見から「5割」という意見まで様々な観測がなされており、少なくとも2割減は覚悟する必要があるようだ。 特に、地方ほど厳しい観測が流れている。都市部と比べて、地方は公共交通機関が未発達なところが多く、日常生活に車は欠かせない。地方は新車を買い求めて寿命まで乗るという、いわゆる「乗りつぶす」傾向が都市部に比べて強い。一家で3~4台保有する世帯が珍しくないが、複数台数保有しているから裕福というわけではない。むしろ、車がないと生活が成り立たないから必要に迫られて複数所有しているのだ。古くなっても買い換えずに大切に乗っているケースが多いところに、その古い車をスクラップにすれば25万円がもらえるというのは、またとないチャンスとして、買い換え意欲を高めた。スクラップインセンティブ(13年超車の解体を条件とした補助金)の利用は地方ほど高く、5割前後にのぼるエリアもあると聞く。この機会に乗り換え、この先10年ほど大事に乗るという顧客に、当面の間は買い換えてもらえない状況が訪れることが懸念される。 また、ある販売店の幹部は「補助金終了後も販売が落ちないよう、販売促進策は色々と講じるつもり。ただ、一番の懸念は営業スタッフだ。今まで補助金を求めてユーザー自身が足を運んでくれ、すぐに売れた。今後はスタッフの意識を変えねば」と心配する。
【補助金終了を販売促進策に】
スバルは、補助金が間に合わなかった場合に、車種限定で9月5日成約分まで最大10万円を補填する策を大々的に打ち出し話題を集めた。「間に合わなかったらどうしよう」というユーザーの不安感を解消することで購入拡大につなげた。このほかにも補助金終了のタイミングで攻勢に打って出る動きが、特に輸入車業界で活発化している。 輸入車業界では、エコカー補助金制度の内容が公表された2009年6月当時、対応車種が全く存在しなかった。燃費性能や環境性能が国産車と同等か、秀でている車も存在したが、日本車と輸入車で検査方法が異なるため、エコカー補助金の対象とはされなかった。 日本自動車輸入組合のハンス・テンペル理事長(当時)は、「国産車と比べ、エコカー補助金やエコカー減税の対象車が極端に少ない現状はあまりに不公平すぎる」として、国への陳情活動を通じ、是正を求め続けたがすぐには是正されなかった。国産車はプリウスをはじめ、エコカー補助金の恩恵を最大限に受けて販売を伸ばしたが、輸入車は対応車種がほとんどなく、苦戦した。 そこで、インポーターや販売会社は独自の販売促進策、たとえば25万円分のクーポン提供といった施策を身銭を切って打ち出し、販売につなげようと努力した。それと並行して、エコカー補助金の支給が受けられる車種を少しづつ拡充するように努めてきた。 今年1月、政府が「輸入自動車特別取扱制度」(PHP制度)を利用して少量輸入した車について、生産国での検査データを代用できるように適用条件を緩和したことで、補助金に対応する車種が増加。特に、それまで適用車種がゼロだった米国車にも対応車が出現するようになった。 その後も、各社は補助金対応車種を拡充、とりわけフォルクスワーゲン(VW)は補助金対象車を輸入車各社で最も増やしたことで、輸入車業界の中では最も販売実績を拡大した。 ただ、輸入車は対応車種が少ない状況であったことに変わりはない。例えば、VWでみると、エコカー補助金対象車は通称名別では51種、通称型式別で58種存在した。しかし、これらはあくまで13年超車をスクラップし買い換える条件で25万円支給される場合の対象数だ。25万円補助の要件は「平成22年度燃費基準の達成」と「13年超車のスクラップ」だ。 もっと新しい車に乗っている人が買い換える場合や、買い増し、新規購入の場合でも10万円の補助金が受けられる車には「平成17年基準排出ガス75%低減&平成22年度燃費基準15%以上改善」というより重い要件が課せられたことで、補助金対応車種を最も拡充したVWの場合でも通称名別で9種、通称型式別で7種に限られた。輸入車各社についても似たような傾向がみられた。 10万円の補助金対応車が少ないことで、10万円の対応車種も豊富にラインナップする国産車に比べ不利な状況だったことは否めない。13年超の古い車に乗っていた人は輸入車を買う際に25万円の補助金がもらえるが、輸入車ユーザーで13年超車に乗る例は国産車と比べてさほど多くなく、中高年式車のユーザーが多いのではと感じる。だから、13年より新しい車に乗っていた人は補助金が受けられなかったケースが多かったのではと考えられる。 その一方で「25万円補助の対応車を用意できたおかげで13年超の国産車に乗っていたユーザーを一部取り込めた」(輸入車販売会社スタッフ)という声もあり、メーカーにもよるが後半は巻き返しが図れたようだ。 輸入車販売は、PHP制度利用車の補助金適用が開始された今年1月から10ヶ月連続で前年同月を上回る実績を記録。特に、VWは8月に69・2%増の3899台を記録するなど好調ぶりが際立った。 輸入車業界において、エコカー補助金終了にあわせ様々な施策を打ち出している。アウディは、一部車種限定で9月末までに登録を完了した場合に10万円を補助。アルファロメオは9月末までに登録の場合、13年超車をスクラップする条件で一部車種の購入に15万円を補助。BMWは、MINI全車種(MINI John CooperWorks除く)を対象に、9月末までに登録を完了した場合に10万円を補助。VWは、9月中成約と11月末までの登録という条件で10万円の補助を実施中。 当然、国産メーカーも施策を講じる。トヨタは1台5万円の支援を販売店に行うとされるが、他メーカーにおいては全国一律の補助を行うという公式な話はまだない。ただ、今後動きがあるだろう。 一方で、販売店独自の補助策を用意する動きもみられており、補助金終了後の新車販売の落ち込みを各社とも知恵を絞って最小限に留めたい考えだ。(久保元)
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