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個人経営と法人経営のメリット・デメリットなどについては様々な書籍が発行されていますが、この連載企画では「実際のところどうなの?」という素朴な疑問に立ち返り、物語形式でその実態に迫ります。
【今回のテーマ】
「個人事業主」として開業した酒井くんと、「法人」を設立して開業した相川さんは、『第12話:税理士を選ぼう!』で税理士と顧問契約を締結しましたが、車屋を経営するにあたって最低限の税金に関する知識は必要だと感じ、個人事業主と法人それぞれの事業に関する税金について勉強することにしました。前編となる今回は、個人事業主に関する税金の種類と仕組みについてご紹介します。
【個人事業主にかかる税金】
個人事業主は、確定申告をして所得税を納める必要があるということは皆様ご存知かと思いますが、個人事業主にかかる税金は、この所得税だけではありません。我が国には様々な種類の税金(税目)があり、国に納める国税と地方公共団体に納める地方税に分かれていたり、税額計算の基となる課税対象も様々です。その中で、個人事業主が押さえておくべき税金は、所得税、住民税、個人事業税、消費税の4つです。
なお、この他にも個人事業主が所有するものに課される固定資産税・償却資産税や自動車税、日々の契約書類などに貼り付ける収入印紙(印紙税)なども税金の一種ですが、ここでの解説は割愛します。
【個人事業主と所得税】
所得税は、1月1日から12月31日までの「所得」に対して課される国税です。所得は、収入(年収・売上)ではなく収入から経費を差し引いた金額を指します。個人事業主は、毎年1年分の所得を自分で計算して、定められた確定申告期間(原則として、所得を得た年の翌年2月16日から3月15日)中に、税務署に確定申告書を提出し所得税を納付する必要があります。
<所得税額の計算方法>
所得税額は、収入から経費と生命保険料控除や扶養控除といった各種所得控除を差し引いた「課税所得」に税率をかけて計算します。
[課税所得(収入-経費-各種所得控除)×税率]
なお、所得税の税率は課税所得金額に応じて段階的に税率が高くなる累進課税制度が採用されており、その税率は次のとおり7段階に区分されています。
・課税所得金額1,000円から194万9,000円まで
→ 税率5%(速算控除額0円)
・課税所得金額195万円から329万9,000円まで
→ 税率10%(速算控除額9万7,500円)
・課税所得金額330万円から694万9,000円まで
→ 税率20%(速算控除額42万7,500円)
・課税所得金額695万円から899万9,000円まで
→ 税率23%(速算控除額63万6,000円)
・課税所得金額900万円から1,799万9,000円まで
→ 税率33%(速算控除額153万6,000円)
・課税所得金額1,800万円から3,999万9,000円まで
→ 税率40%(速算控除額279万6,000円)
・課税所得金額4,000万円以上
→ 税率45%(速算控除額479万6,000円)
例えば課税所得金額が500万円の場合、同330万円から694万9,000円までの所得税率は20%、速算控除額は42万7,500円なので、所得税額の計算式と税額は次のとおりとなります。
[500万円×20%-42万7,500円=57万2,500円(※)]
※2037年までは、所得税額の2.1%の金額を東日本大震災の「復興特別所得税」として、同税額に加えて納付する必要があるため、最終的に納付すべき復興特別所得税を加えた所得税額は次のとおりとなります。
[57万2,500円+57万2,500円×2.1%=58万4,500円(100円未満切捨)]
【個人事業主と住民税】
住民税は、前年の所得に対して課税される「所得割」と、定額で課税される「均等割」で構成されており、その合計額を住所地がある地方公共団体に納付します。
<住民税の所得割と均等割>
・所得割の税率
→ 10%(道府県民税が4%、市町村民税が6%)
・均等割の負担額(※)
→ 4,000円(道府県民税が1,000円、市町村民税が3,000円)
(※)国土の保全、水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など様々な機能を有する森林の整備に必要な費用を確保するため、2024年度から、個人住民税均等割と併せて、森林環境税(国税)が1,000円徴収されます。
なお、住民税は確定申告が必要な所得税とは異なり、原則として自ら申告をする必要はなく、地方公共団体から届く納付書に納めるべき金額が記載されているため、その納付書に基づいて年4回または一括で定められた期限内に納付します。
【個人事業主と個人事業税】
個人事業税は、地方税法等で定められた法定業種に対して課される地方税です。法定業種に該当しない農業従事者やスポーツ選手などは個人事業税の課税対象となりません。また、事業所得が後述する事業主控除額290万円以下の場合も納税の必要はありません。
<個人事業税の計算方法>
個人事業税には、所得税で適用される所得控除や青色申告特別控除は適用されませんが、年間一律290万円という事業主控除があり、個人事業税の計算式は次のとおりとなります。
[収入金額-必要経費-事業専従者給与-事業主控除290万円)×税率](※)
※1
個人事業税の税率は3~5%で、法定業種によって異なり、車屋の場合には「5%」が適用されます。
※2
営業期間が1年未満の場合における事業主控除の額は、月割で計算します。
なお、個人事業税は都道府県から送付される納税通知書に従い、原則として毎年8月と11月の年2回に分けて納付します。所得税や住民税と違い、納めた個人事業税は経費として計上することができるため、計上漏れがないよう注意しましょう。
【個人事業主と消費税】
消費税は、個人事業主のうち課税事業者に該当する人が納める税金です。課税事業者である個人事業主は、1月1日から12月31日の期間中にお客様から預かった売上に係る消費税額と仕入や経費などで支払った消費税額に基づいて納付すべき消費税額を算出し、翌年3月31日までに税務署に申告書を提出し消費税を納付する必要があります。
<消費税の課税事業者と免税事業者>
消費税の課税事業者とは、消費税の納税義務がある事業者のことで、原則として個人事業主の基準期間である前々年の課税売上高、または特定期間である前年の1月1日~6月30日の課税売上高が1,000万円を超えた事業者と、インボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応した適格請求書発行事業者が該当します。
一方、免税事業者は、消費税の納税義務がない事業者のことで、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者を指します。ただし、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者でも、適格請求書発行事業者に登録した場合、課税事業者になります。
<消費税の計算方法>
課税事業者が納めるべき消費税額は、原則として「売上に係る消費税額」から「仕入・経費に係る消費税額」を差し引いて計算します。ただし、消費税額の計算の際に「仕入・経費に係る消費税額」を差し引くには、取引相手が発行した適格請求書(インボイス)が必要となり、取引相手が適格請求書を発行できない免税事業者の場合には、自身が支払った消費税額相当分を差し引くことはできません。(現在は一定の経過措置があります。)
また、課税売上高5,000万円以下の事業者は、事前に税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておくことで、「仕入・経費に係る消費税額」の計算において、実際に支払った額ではなく、みなし仕入れ率を使って簡便的に計算した額を差し引いて消費税額を計算する「簡易課税制度」を選択することも可能です。
【今回のまとめ】
今回は、個人事業主に関する税金の種類と仕組みなどについてご紹介しました。我が国の税金は数多くの種類があり、それぞれの税金には複雑な規定や特例が存在するため、今回ご紹介した内容は、ごく一部の一般的な内容となっています。また、税金のことは全て税理士に任せているという経営者の方も多くいらっしゃると思います。しかし、経営者として様々な経営判断や選択を行ううえでは、最低限の税金に関する知識は必要不可欠です。これまで税金との関わりを避けてきた方も、税金を毛嫌いすることなく、まずは興味を持つところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
【著者紹介】
税理士 酒井将人。
自動車業界特化型税理士事務所OFFICE M.N GARAGE代表。
税務の枠を超えて自動車販売店の業務改善などを行う「中小企業者の経営サポート」と「相続&事業承継対策」のスペシャリスト。著書に『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務Q&A(セルバ出版)』『おうちのくるま(乗り物絵本シリーズ)』など。
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