【特集】気をつけよう!M&Aブームの光と影 - グーネット自動車流通

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【特集】気をつけよう!M&Aブームの光と影

コラム 2022年10月25日
藤堂氏に学ぶ、事業承継と事業再生のポイント

 企業の買収(M&A)が新聞各紙やニュースなどを通じて一般的になっている。M&Aという手法を使うことで、短期に業績を拡大でき、新たな市場に参入できるなど、効率的な事業拡大策として大きなメリットがある。実際にM&Aを駆使して、売上高を20倍、30倍に急拡大させた自動車関連企業もある。一方で、M&Aの知識や経験が不足していることで被った損害や問題点など〝M&Aの影〟の側面については、あまり多くを語られることはない。そこで今回はM&Aの〝光〟と〝影〟に焦点を当て、実際にM&A案件を40件以上手がけた豊富な経験を持つ藤堂高明氏(cars代表取締役)に、M&Aの実情について聞いた。(室田一茂)

 日本では、長期化するコロナ禍や急激に進行する円安ドル高、ロシアによるウクライナ軍事侵攻による不安定な国際情勢など、100年に1度と言っても過言ではない環境変化が巻き起こり、われわれ自動車関連業の業績にも大きな影を落としている。自動車業界においては、こうした流れとは別に、車両技術の高度化が急速に進み、自動車流通市場の競争は年々激化している。新車ディーラーや大手中古車販売店が総合営業を展開、ガソリンスタンドやリース会社などプレーヤーは拡大、死活問題とも言える厳しい競争環境にある。

 こうした環境下で、自動車関連事業者は事業を承継するか、廃業するかの大きく2つの選択が迫られている。団塊世代の経営者からの事業承継はここ10年の間で活発化している。事業承継の方法は大きく分けて2つ。「相続・親族内承継」と「事業売却(M&A)」だ。特にM&Aは民間の仲介会社や金融機関だけでなく、国や自治体などが「売り手」と「買い手」のマッチング支援も活発化している。

 自動車業界でもM&Aが一般的な時代が到来しているが、ここには大きく3つの問題が存在する。

 ①金額と②M&A後の経営、③M&Aを実行するための体制や仕組みの欠如だ。

 ①金額については、取得金額以外にかかる仲介会社への手数料などが買い手側の負担増にもつながるほか、売り手と買い手を1社が仲介することで、利益相反取引と言われかねない構造もある。

 ②経営の問題については事業を売却する会社は〝何らかのワケ〟があって売却するに至っていて、取得する会社はその〝ワケ〟を解決できるだけのノウハウや人材などのリソースを有していることが最低限の条件で、まさに事業再生ノウハウがあるかどうかにかかっている。

 ③体制や仕組みは欠かせないため、こうした準備が整わないまま事業を取得すると、事業の根幹まで傾きかねない。

 事業承継や事業を取得するということは、良い意味でも悪い意味でも前経営陣の経営の〝ツケ〟を払うことであることを忘れてはならない。その責任を取れないのにM&Aを行うということは、最終的に残された社員や顧客にとって不幸になるということにもなることを忘れてはならない。

「絶対うまくいく事業再生!?その秘訣とは」
  ~実は事業を買う前に勝負はついている?!~

 これまで40件以上のM&Aと事業再生を手がけてきた藤堂氏にその再生の秘訣を聞いた。そこには「再生に奇策なし」とも言える規則性が垣間見える。

「実は、事業を買う前に勝負はついている」という藤堂氏。その真意は、以下の3点が整っていないのにM&Aを行うのは本末転倒だという。

 M&Aを行うための必要条件
 ①そもそも何のためにその事業が必要なのかの必然性
 ②適切な事業の評価(値付け)
 ③取得後の事業の再生計画

 ①漠然とM&Aで事業を拡大したいというのは非常に危険だ。M&Aの仲介会社には多くの買い手企業が登録されている。複数の仲介会社に登録している企業も多く、どこに相談しても同じ会社に案件が紹介される可能性が高くなる。こうした状況を藤堂氏は「無節操な買い手」と表現する。つまり、事業を買うことが目的になっているということ。その結果、M&A後の再生に失敗するケースもよく見られる。こうした失敗を防ぐためにも、M&Aに向けた明確な目的意識とポリシーが必要だ。例えば、自社と同じ商圏内の全く同じ業態を取得したいのか、商圏内の関連事業を取得したいのか、隣接県などの新規エリアで事業を取得したいのかによっても、取得金額に大きく影響を及す。

 ②事業の価格はある程度のモノサシはあるが、唯一の値段というものはない。売り手と買い手が合意した価格こそが売買価格。売り手は「高く売りたい」となり、買い手は「安く買いたい」となるのが当然だ。このため、仲介会社を挟むことで「利益相反取引」となり、どちらかが損をする可能性が高い。最も重要なことは、残された社員や顧客にとって「良かった」と思われる事業であること。社会の公器である事業・会社という前提を忘れて、売った、買ったの「マネーゲーム」になってはいけない。そのため、事業継続を前提とした事業の評価(値付け)が何より重要になる。値付けについては、業種業態、会社・事業の中身、もちろんこれらに加えてバランスシート(BS)や損益計算書(PL)などの経営数字も踏まえて検討する必要がある。一律にBS/PLに基づいて設定された価格で検討するのは危険だ。

 ③事業を取得してから再生を考えるようでは、成功確率は大きく下がってしまう。「M&A前に勝負はついている」のだ。この点においてスポーツや戦い同様の「準備」が一番大事だ。①と②、そして取得後の事業の再生計画を立てられる案件のみを取得することがM&Aを成功させるための必須条件。これが欠如して事業を買ってしまうと、買った後に想定外の事態が発生した時に対処できないということも考えられる。十分な準備・検討を経て事業を取得しても、想定外により事業計画が狂うことはよくあることで、これが再生を難しくしている不確定要素なのだから、M&Aの前にできるだけそうした変数は減らしておくべきだ。

 こうした前提条件を踏まえ、藤堂氏は多くの事業取得を行なってきた。これらを実行するために重要となるのが「再生ノウハウ」だ。藤堂氏の会社は、本人が事業継承する以前は、毎年7000万円もの赤字を垂れ流していた整備工場だった。その整備工場を再生したノウハウがあったからこそ、以降のM&Aに繋がったといえ、まさに藤堂氏にとっての最初のM&Aとは「父親の事業を引き継いだこと」に他ならなかった。

 さらに、こうしたノウハウを共有し、実行に移すことのできる「人材」がいなければ全ては「絵に書いた餅」になる。事業の取得や再生を共に実行する仲間作りは、外部から招聘しても上手くはいかない。もちろん内部者だけでも上手くいかない。そのため、外部招聘と内部育成の組み合わせこそが人材づくりの鍵となる。さらには、これらの人材と武器とも言える「ノウハウ」をいかに組み合わせ、対象事業の再生を行なっていくかのロードマップとそれらを実行に移すためのマネジメントとオペレーションが欠かせない。これらのことをM&Aを検討する段階に終えておかなければならない。これこそが、M&Aを成功に導くか、失敗するかの大きなポイントといえる。藤堂氏にはこれらの事業再生における一貫した考えがある。それこそが「3つの要点」と「4つの手順」である。今回はこのうち3つの要点について説明したい。

 3つの要点とは次の通り。
 ①基盤顧客作り(リピート作り)
 ②新規顧客作り
 ③LTV(ライフ・タイム・バリュー)の拡大

 どれも当たり前のことを言っているに過ぎないが、この3つ全てをきちんと達成するためには、愚直かつ泥臭い現場マネジメントが欠かせない。

 ①自社の主力サービス(中古車販売店なら車両販売、自動車整備工場なら車検・整備など)で徹底した顧客管理が必要だ。基盤顧客作りが整っていない会社は、いかに新規をとっても定着せず広告宣伝費などのマーケティングコストを無駄に垂れ流すことになる。

 ②基盤顧客作りを行いながら、新規顧客の獲得を行う。まずこの順序を間違えてはならない。一方で、基盤顧客ばかりに気をとられ新規の顧客獲得への着手を後手に回すわけにはいかない。事業再生とは、買った会社の社員や顧客に新しい価値観を持たせ、前向きに参加してもらうことに他ならないため、目に見える形での数字の上昇が何より必要だ。それこそがこの新規顧客作り、である。買い手企業は、この新規獲得のためのノウハウを持っていることが重要。新規顧客を獲得し、成果を創出できる企業の傘下になれば、残った社員も安心して事業再生に取り組むことができる。

 ③一人の顧客に一生涯お取引いただける存在になるということ。いかに基盤を守り、新規を増やしても、単一商品・サービスの提供だけでは利益の最大化は見込めない。M&Aというのは、単なる足し算ではなく、事業を取得するごとに掛け算で効果を見込むものでなければならないということだ。そのため、事業を取得する会社として、LTVを拡大するためのさまざまな商材やサービス、ノウハウを有していることは事業再生を成功させるためにも欠かせない資質であると言える。
 これらの経験から、藤堂氏は「従来型のM&Aは旧来の手法で、これからは『M&A2.0』の新時代だ」と強く唱える。M&A2.0とは、買い手自ら売り手を探し、相手と共に事業をより良くしていくという「共創型のM&A」のことだという。

 そのM&A2.0を学ぶ機会として「CAMP」という勉強会組織を立ち上げ「優良な買い手を1社でも応援し、業界を存続させ、業界の社会的地位の向上につなげていきたい」(藤堂氏)と語る。CAMPには全国の意識の高い経営者が参加し、定期的な勉強会やケーススタディ、また買い手の相談に乗るなど、これまで業界では共有されなかった多くのノウハウを取得できる場として、メンバーは年々増加しているという。

 次回は、藤堂氏が示すM&Aを成功に導くための「4つの手順」の詳細を説明するほか、同社が実際に手がけた事業承継・事業再生の具体例として、大阪府茨木市の自動車整備工場の成功事例を紹介したい。

【プロフィール】
藤堂高明(とうどう・たかあき)氏。cars代表取締役。大学卒業後、大手通信会社に就職。2003年3月、1960年創業の家業である天理興業(のちのファーストグループ)に入社。先代から事業承継を行い、毎年7000万円の赤字が続いていた同社を見事再建し、10年で「年商10倍」を実現するとともに、大幅な黒字転換で事業再生を果たす。これまで約40件ものM&A案件を手がけてきたが、近年はこのノウハウの提供・共有のほか、「売り手」と「買い手」のマッチングなどに注力する。中小規模の自動車関連企業が抱える経営課題を解決するためのシステム開発に舵を切った。22年7月、社名をファーストグループから変更した。クラウド型マーケティング支援ツール「carsMANAGER(カーズ・マネージャー)」を手がけ、車販や車検・整備、鈑金、保険、部品・用品、レンタカーなどを手がける個々の中小事業者のマーケティング支援や地域ネットワーク構築などに注力する。一方で「M&A」を学ぶ勉強会組織「CAMP」を立ち上げ、優良な「買い手企業」の育成を目指すとともに、業界の社会的地位向上にも努める。carsでは、新規株式公開(IPO)を目指している。

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